大型連休が終わっても線路はどこまでも続いていく
1日休んだ後の点検場は休む前より混乱していた
ギアステーションでは修復不可能と判断した車両はカナワに戻され、そちらで万全に仕上げられた車両がまたこっちにやって来て、今度はその点検と最終整備確認作業
忙しさが頻繁に遊びに来る中、キロは1人嬉しそうにトレイン整備に当たっていた

「とうとう忙殺されたか…」
「違います。先輩そこのつり革取れそうです」
「おっと。誰かぶら下がって遊びやがったなー」

休みとはいえたった1日
整備士達を万全にするには短すぎる
しかし彼女は鼻歌を交えながら人一倍動き回った
それはチームリーダーが心配するほどにいつも通りで、そしていつも以上に笑顔だった

「キロ執務室から鍵持ってきてくれ」
「はい」

倉庫の立て付けが悪いらしく持っていた鍵はひん曲がっていた
スペアキーを取りに最奥の点検場から出て行く
途中また迷子になっていたカズマサを拾い、ホームを横切ろうとした時甲高い声にキロは呼び止められた
高いヒールに長い足を曝け出し、短いスカートに洗練されたシャツ、丁寧に梳かれた髪の毛
下から順に見上げていくほどキロの顔は険しくなった

「どうも…」
「私今日はマルチに乗ろうと思って」
「はぁ」

どうでもよさそうなキロの返事にカズマサの方が慌てる
気にしていないのか話しかけてきた女性は髪を靡かせ笑った

「ただのマルチじゃないわ。スーパーの方よ」
「それは…お疲れ様です」

キロは彼女ではなく最終車両にいる2人を思い浮かべ労いの言葉を告げた
以前クダリが誘ったのを、彼女は律儀に覚えてやって来たらしい
キロが知らない間にノーマルのシングルとダブル、マルチは制覇したようだ
女性の後ろにはこれまたエリートそうな男性が立っている

「知り合いですか?」
「少し」

カズマサがこそっと尋ねる
言葉を濁しながらキロは頷いて用はそれだけかと返した
すると先程まで余裕の笑みを浮かべていた彼女が眉間に皺を寄せる
何故かカズマサが驚きビビった

「私が49両目に行ってクダリ様とバトルし、勝つ姿を指を咥えて見ていなさい!」

言いたいことだけ言うとヒールを鳴らしてスーパーマルチトレインの乗り場へ去っていく
自分の知らない間に"様"付け昇進していることに、キロは小さく溜息を吐いた
そして何事もなかったかのように歩き出す

「いいんですかアレ…完全に宣戦布告されてますよ」
「過去のことならいざ知らず、今の私に喧嘩売られる原因ありません」
「えっ!だってキロさんボス達のお気に入りじゃないですか!」

大声でカズマサが言い放つ
ホームに居た数人がキロとカズマサの方に顔を向けた
不躾な、遠慮のない視線が降り注ぎキロは顔を顰める

「こ、このままじゃ盗られますよ」

視線に怖気づいたカズマサの声が小さくなる
止めていた足をまた動かし、キロは無言のまま執務室へ向かった
扉を開けた先には大量の段ボールが積まれていた
それを必死に運んでいたラムセスがキロに気付き手を止める

「倉庫の鍵を取りに来たんですが…」
「手伝ってくれると嬉しいのさ」
「女っていうレールはこれだから………すまない」
「いえ、私もそう思います」

トトメスの近くにあった段ボールを持ち上げ彼女は同意する
連休や行事がある度に、こうしてノボリとクダリ宛に大量のプレゼントが届く
中にはクラウドやキャメロンなど鉄道員達に宛てられた物もあるが、圧倒的にサブウェイマスター宛が多い
それらを誰に向けられた物か丁寧に仕分けしていく
こうでもしないと誰も持ち帰りや処分しようとしないからだ

「カズマサさんにもありますよ」
「えっ!」
「男性からです。どうぞ」
「泣きそうだよ…」

咽び泣く彼に淡々と贈り物を手渡す
ノボリ様、クダリ君、クダリさん、と決められた箱に分けていく
マイスイートダーリンなどの不明物はサブウェイマスターと書かれた、通称ジャッジ面倒ボックスに入れられる
半分ほど山が片付いたところでスペアの鍵を借り立ち去ろうとするキロにラムセスが箱を差し出した

「これ君の分さ」
「…まさか」
「あ、これもですね。薄紫髪の女性整備士さんへ、ってキロさん以外ないでしょう」

大きめの箱いっぱいに積まれたプレゼント
困惑するキロにラムセスは無理矢理押し付けた
こういった品々を貰ったことが無い彼女は珍しく焦りの色を浮かべ、首を傾げながらも点検場まで持ち帰る
鍵を先輩に渡すと案の定箱について突っ込まれた

「お客様からの頂き物だそうです…?」
「疑問系か。連休はホームに俺達整備士もよく出るからな」

普段表に出てこない整備士達にはコアなファンがいる
鉄道オタクは勿論のこと、働く男性が好きな人も一定数存在する
話を聞いてキロは納得し素直に贈り物を受け取ることに決めた
ロッカーまで彼女が仕舞いに行っている間、先輩整備士達はこそこそと話し合う

「本気5割、萌3割、恨み2割だな」
「いや本気7割で萌2割、憧れ1割だろー」
「あとで誰かこっそり集計取ってこい」

先輩達が言い合っている最中、人のいない更衣室に着きキロは段ボールを床に置いた
何気なく1番上にあったプレゼントを手に取り開ける
可愛らしいネックレスと手紙が同封されていた
蛍光灯の微かな光を集めてキラキラ光るそれを眺める
さっと首元に当ててみたが作業服とは当然つりあわなかった
手紙にも目を通すと、それなりにご職業の良い男性から

「余計似合わないかな…」

丁寧に便箋を折り畳み直しネックレスも箱へ戻す
腰に引っさげている汚れた軍手が視界に映る
自分には此方の方が似合っていると感じた
ロッカーを開いて雪崩が起きないよう仕舞い帰る途中、職員用モニターから音声が流れた
キロの無線にもトレインの状況が飛び込む

『スーパーマルチ挑戦者、現在42連勝やで!ボスらいっちょ頼みますわ!』

クラウドのどこか楽しそうな声
気付けばキロはホームに向かって走り出していた
乗り込もうとする白黒2つのコートをその手で握り締める

「キロ?」
「どうなさいました?」

振り返った2人にキロはごくりと唾を飲み込み目を向けた
真っ直ぐ。深い海から空へと跳ねるポケモンのように、光を一身に集めて輝かせ


「私も乗せてください」


それの応えは華奢な彼女の掌を引いた、2つの白い掌だった







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