「苗字〜」
苗字がまた泣いていた。放課後、教室の隅っこに座って。夕日が傾き、涙で濡れた大きな目がきらきら反射していて、不謹慎ながらああきれいだなあと思ってしまう。苗字は踞ってえぐえぐ喉をしゃくりあげて、膝を抱えていた。
「なに〜今日はどうしたの〜?」
「うう、はまの…く、ん…うええ」
「先生に叱られた?それとも友達と喧嘩?あ、今日の試験の結果が悪かったか?ん?」
「ちが…う、っく」
「まず落ち着こう、な?」
「う、あうう…っ」
「ああもう、泣くなって。イイコだから」
ぽんぽんあやすように頭を撫でると、それが嬉しかったのか苗字は少し目を細めて笑った。笑ってくれたのが嬉しくて俺も思わずにやついてしまう。
膝を抱えた苗字の隣に同じような体勢で座って聞いてみる。どうして泣いてるのかって。苗字は顔をあげてゆっくり話始めた。
「あの、私ね…」
「うん」
「私ドジだからね、今日もいっぱい人に迷惑かけて、」
「ん…」
「もうやになっちゃって…」
「んー、そっか」
「いまだって、浜野くんに迷惑、かけてるし…」
「なんで?そんなことないって」
「でも…」
「ちゅーか好きな子慰められるなんてむしろ嬉しいし」
苗字の泣き顔も慰める役目も、全部全部俺が独占したい。きっとここで抱きしめちゃえばかっこいいんだろうけど、びっくりしすぎてもっと泣かれれば困るから頭を撫でる程度に止めておいた。
そしたら、一度は乾いてた苗字の瞳から大粒の涙がぼろぼろ出てきて。あれ、これもしかして、告白の嬉し泣き、だったりして。それだったらいいなあ。なんて思いながら、苗字の口から言葉が紡がれるのを待ってみる。