「どうせお前、明日も暇なんだろ」
懸命に絞り出した言葉がこれである。昨日かれこれ一時間ほど、不自然でなく尚且つ軽い気持ちで言える誘い文句を、真面目に考えたというのに。時間の無駄だった。またいつものような喧嘩腰の、態度の悪い口調で苗字に話しかけてしまった。表情にはきっと出ていないが、内側では後悔と怒りでぐちゃぐちゃだ。馬鹿だ。俺は本物の馬鹿なんだ。苗字は目をぱちくりさせて、はあ…と曖昧な返事をしている。
「暇だけど…どうしたの?」
「……やるよ」
「あ、映画のチケットだ」
しかも恋愛映画。苗字が前々から見たい見たいと言っていたやつ。もうこの時点で顔が熱いのに、「私が見たいって言ってたやつ、覚えててくれたんだね」とにっこりされたものだから、血液が逆流するくらい恥ずかしくなった。
「うるせえ!たまたまだそんなの」
「一緒に行ってくれるの?」
「……っどうせ、お前と見に行ってくれる奴いないだろ!仕方なくだ仕方なく!」
「ありがとう剣城くん」
うわ眩しい。苗字の笑顔眩しい。まともに顔が見れない。苗字から背けた顔にはきっと羞恥やら嬉しさやらが色々混ざって大変なことになっているに違いない。唇が変ににやついてぐにゃぐにゃだ。一瞬だけ目が合うと苗字はまたにこりとした。
「でもね剣城くん」
「な、なん、だよ」
「一応付き合ってるんだから、もっと普通に“デートしよう”って言ってくれてもいいのに」
でも素直じゃないとこも好きだよ。と付け足した苗字の笑顔に俺の中の何かが爆発した。あああ!反則だ!可愛すぎだばか!