穏やかで控えめな笑顔が印象的な彼女は自分はポケモンソムリエールの見習いだと言っていた。
それに嘘は無く、彼女の格好は決まっていつも蝶ネクタイが可愛らしい形のリボン、それにシックなベストを合わせ、ハーフパンツを着ている。これを着ると気合いが入るのよ。珍しく彼女が声を張り上げていたので今でも記憶に残っていた。
しかし腕は…なんていうかその、まだ発展途上で…ポケモンフーズを自分のオリジナルレシピで彼女が作った時、彼女は何を間違ったのか全て焦がしていた。どうすればそうなるんだ、と思うくらい全てが黒に還っていた。あっうまくいったわ!そう笑う彼女に僕は本当にびっくりしたのを覚えている。
「…もう、駄目かもしれない」
「なにが?」
「ソムリエール、」
かしゃん。ティースプーンが手からぽとりと落ちて、受け皿とぶつかり無機質な音を奏でた。嘘だろ、僕の口からぽろりとそんな言葉が出たがそれは空気と溶け合って消えてしまったから、彼女には届かなかった。彼女は伏せ目で、僕と目を合わせない。琥珀色の紅茶が透明な湯気を静かに立てていた。
「ううん。もうきっと駄目ね、私」
「どうして、」
「自分に才能がない、って分かったの」
ポケモンフーズは焦がすし、初歩的なテイスティングさえ出来ない。手持ちのポケモンたちには迷惑ばかり掛けるし…きっと皆うんざりしてるわ。夢ばっかり見ててもね、叶わなきゃ意味がないのよ。才能が無かったらね、何にも意味がないのよ。そう言って一口紅茶を飲んで彼女は無理矢理な笑顔を作った。
「…才能がないからなんなんだよ」
「えっ?」
「確かに君はポケモンフーズは焦がすし、テイスティングだって上手じゃないし、ソムリエールとしてまだまだ未熟だ」
「……」
「だけど、君は僕が知ってる中で一番の努力家だ。君には努力出来る才能があるじゃないか。あんなに一生懸命になる人なんて中々いないよ。なれない人の方がほんとは多いんだ。だから、」
シューティーくん、ぽかんとした顔の彼女が僕を呼んだ。いつの間にか、気付いたら席を立ち上がって熱弁している僕がいた。周りの人々の注目を集めている。横目で確認して、静かに座った。
…なんて、僕らしくない。彼女もそう思ったらしく、なんだか…シューティーくん、らしくないよ。なんて涙声で途切れ途切れに呟いた。どうして、そこまで言ってくれる、の?しまいに彼女は俯いてそう問うた。…あれ。何でだろう。どうして僕はこんなにも彼女を気にかけているんだろう。あ…そうだ…僕は。
彼女の悲しそうな顔を見たくなかったんだ。