お日さまの考察
るちちゃん、どこか行くの?ええ、ちょっとね。隣にいた茜とそんな会話をしたあと、るちはベンチを立ち上がり、フィールドの端に設置してある階段へと向かう。目的は勿論、その階段に座り込んで試合を“監視”する、彼だ。
「こんにちは剣城くん」
「あ?誰…っ…」
るちの顔を見た瞬間、振り返った剣城の金色の瞳が一瞬凍った。その表情にるちの頭の上に疑問符が浮かび上がる。
「どうかした?」
「あ、いや…って誰だよお前」
「ま、お前だなんて失礼な。私は悦田るち。サッカー部のマネージャーだよ。知らない?」
「知らねえ」
「ていうか私二年生。敬語使いなさいよ、け・い・ご」
「うぜえ」
ぷちん。るちの中で何かが切れた音がした。ひきつらせた笑みを保ちつつ、剣城の束ねてある紺色の髪を思いっきり引っ張った。
「おい離せ!」
「離してく・だ・さ・い・でしょ?」
「…離して、ください…!」
「はい、よく出来ましたー」
剣城のポニーテールをぱっと離すと、るちは彼の隣に座り込んだ。頭部を押さえながら、剣城は踞っている。それなりに痛かったらしい。しかしるちに反省の色は見られない。浮かべた満面の笑顔にはざまあみろと書いていた。
「剣城くんは受けないの?入部テスト。監視役だから?」
「……分かってるなら聞くな」
「………」
「…聞かないで、下さい」
眉間にこれでもかと皺を寄せる剣城。隣から発せられる恨みのこもった視線を少しも気にすることなく、るちは試合を眺めている。いつの間にか太陽は傾き始め、空は橙色に染まっていた。
フィールドの中で懸命にボールを追いかける天馬と西園。五人いる入部希望者のうち、三人はもう入部を半分諦めたらしく、フィールドの中で適当に動いていた。きっと今回のサッカー部の事件を聞いて集まったただのミーハーな連中なんだろう。部員が大幅に減ってもなお、実力は衰えていないのだ。
うんうんとるちが満足そうに頷いたその時、フィールドにいる天馬が小さく叫んだ。其処では神童が入部希望者相手に一人本気の試合を展開させていた。
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