根源世界のプロローグ
少女の世界はいつも四角く存在した。
それは白い清潔な箱の中であったり、慣れ親しんだ桃色のカーテンの向こうであったり、何処にいても彼女の世界は狭い枠の中に鎮座していた。
薄青い空が熱に魘される彼女の瞳の上で波のように揺れる。天へと手を伸ばしても、少女と世界は澄んだ硝子によって阻まれ、指先に感じるのは冷たい玻璃の温度のみであった。
しかし、その隔たりを簡単に開け放つ人物がいた。
さらさらと揺れるカーテンの向こう、彼女によく似た少年は容易に扉を開いてみせ、そして彼女の手を取る。
窓から吹き込んだ風が髪を揺らす。目前の翡翠の双眸が細められて、少女は魔法に掛けられたかのように幻想の中に浸っていた。
――こんなところにいたって苦しいだろう。僕と遊ぼうよ。
少女は満面の笑みで頷く。清い空気に満ちた真白い部屋をこっそりと抜け出して少女は少年の手に自身の指をしっかりと絡める。
彼に間違いはない。彼女にとって少年は家族であり魔法使いであり、かみさま、なのだから。
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