魔法ならばその手の中に


後半が開始され早々、天馬達は天河原の面々と激しいプレーを繰り広げていた。
しかしまだ未熟な彼らのプレーに天河原の選手はいとも簡単にボールを奪う。ボールは隼総に渡り、そのまま雷門ゴールへと叩き込もうとする。

「はあああっ!!」

「……三国先輩!?」

予期していた加点のホイッスルは響かない。三国が隼総のシュートを放つ直前で受け止めたからだ。…三国もまた、天馬達と共に闘うことを決意したのだ。

ボールは三国から神童に渡る。一気に責めたいところだが、神童の前に天河原中のキャプテン・喜多が立ち塞がる。しかし、神童は華麗に喜多を交わし、「神のタクト」を使いボールは天馬へ。

「そよかぜステップ!」

颯爽とした風が天河原の選手を巻き込んで、抜き去った。

――松風くん。いつの間にあんな技を…

ボールは神童に一度返される。しかし放たれたパスは敵によって弾かれてしまう。だがそれすらも神童の考えの範囲内だった。
跳ね上がったボールは西園へのパスだった。西園の脅威のジャンプ力でボールは天河原に渡ることなく、雷門が支配していた。しかしここで隼総の乱暴なアタックが西園を襲う。
ボールを奪取した隼総はそのまま雷門陣内へと切り込み、一気に勝負をつけるべく、己の化身を再び呼び起こした。

「ファルコウィング!」
「させるもんか!」

そこに立ち塞がったのは天馬だ。天馬は化身の力が加わった強力なシュートを受け止めたのだ。その背には、見覚えのある青黒い気がうっすらと浮かんでいる。

「あれは、もしかして化身の…!?」

るちは目を疑った。しかし天馬の化身は発現することなく、強力なシュートの前に弾かれてしまう。そこへ神童が化身を発現させ応戦するが、まだ化身の力を十分に引き出すことの出来ていない彼も天馬と同じく弾かれてしまった。

(でも、シュートの威力は弱まった!)

隼総のシュートに三国のバーニングキャッチが放たれる。炎を渦巻いたそれはしっかりの隼総のシュートを止めてみせた。

「いけ!天馬!」

三国から天馬にボールがパスされ、迫りくる敵をそよかぜステップで回避しながらボールはついに神童へ託された。

「神童!お前なら化身を使いこなせる!」
「…はい!」

神童は再び化身を呼び起こす。その強い思いに応えるように、化身の力が更に大きく、膨らんでいく。

「来い!俺の化身!…奏者マエストロ!」

奏者マエストロと呼ばれた化身は神童に更なる力を与えた。化身によって神童に落とされたボールはまっすぐに天河原ゴールへと伸びていく。――ハーモニクス。神童の化身シュートだ。

『ゴール!!雷門、土壇場で天河原を突き放しました!――…そしてここで試合終了!ホーリーロード地区予選一回戦、勝ったのは雷門中だあ!!』

わああっと観客席が歓声に揺れる。人の声が波となって、耳を劈く。
るちはしばらく何も考えられなかった。
…勝った、勝ってしまった。いや…勝てた!彼らは、成し遂げたのだ!

るちは走った。スタジアムのフィールドへ向かって。試合を見て気付いた、どうしようにもないこの気持ちを早く、伝えたかった。

「…みんな!」
「悦田!?どうして…」
「あのね、私ね、やっと分かったの!」

るちは神童の前に立った。大急ぎで来たため、乱れた息を整えながら、これから放つ言葉のためにるちは大きく息を吸った。

「私ずっと嘘ついてたわ。サッカーが嫌いだって。神童くんの言う通り私はずっと逃げてた。
でもね、今日の試合を見てもう逃げるのはやめようって思った!だって松風くんや神童くん、みんな逃げないで戦ってたんだもの!
だから私ももう逃げない!ちゃんと向き合って、戦う!」

その言葉に神童は一つ頷くと少しだけ唇を緩ませ、ああ、と呟いた。
天馬と西園、そして三国も晴れやかな表情でるちを見つめる。
るちが本当の気持ちを他人に伝えたのは久しぶりだった。思いを伝えるのがこんなに気持ち良いものだと、るちはやっと思い出した。

「やっと分かってくれたな、悦田」

背にに掛かる言葉にるちは振り向く。見覚えのある太陽の笑顔がそこにはあった。

「あ、あれ。先輩何でここにいるのよ」
「先輩?何を言ってるんだ悦田」
「ああ、悦田は最近部活に来てなかったから知らないのも無理ないか」
「この人は新しい監督、円堂監督です!」

天馬の紹介にるちは素っ頓狂な声を上げた。るちが屋上で出会ったオレンジバンダナの彼――目の前にいる男こそ、雷門の新監督、円堂守だった。

「えっ嘘!監督だったの!?ちょっと〜最初から言ってよ〜」
「敬語使え悦田!」
「あーもう。うるさいわね神童くん」
「はは!騙してたみたいで悪かったな悦田!」

円堂はにかりと笑う。その笑みにつられ、膨れっ面だったるちの顔も自然と笑顔に変わる。また部活に来てくれるんだよな?という彼の質問に彼女は首肯した。

「それじゃまた明日、待ってるからな!」
「あ、すいません。明日じゃなくて明後日からで!」
「どうした?大丈夫だぞ怖がらなくても」
「いえ、そうじゃなくて」

その一瞬の間に不意に幼馴染みの視線が刺さった。アクアマリンの双眸が不安げに揺れる。るちは一瞬だけ目配せして、また円堂を見つめ返した。

「大事な用があるんです」

るちは笑顔で円堂にそう答えた。



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