この光を希望と呼んで
後半開始からずっと天馬はピッチの中に突っ立ったままだった。フィフスセクターの実態、そしてこの試合に隠された秘密を知ってしまった彼は、今のサッカーの在り方に絶望したのか、それとも…。水鳥の声援も葵の不安そうに名を呼ぶ声も彼には届かない。それでも試合は続く。攻める栄都学園、守る雷門。全てはシナリオ。
「松風くん…」
栄都学園、追加点。
「あ…」
「…くそ!」
「………」
落胆するベンチ。るちは無意識に顔をフィールドから背けた。
「…るち、何とも思わねえのかよ」
水鳥が名を呼んだ。しかしそれに応答することもなく、るちはただ目を伏せたままだった。葵と茜の不安そうな視線を背中で感じながら、自分のせいでベンチは徐々に不穏な空気に染まりつつある、と彼女は思う。
「るち!」
「わ…、う…よ」
「あ?」
「私だって皆に勝って欲しいってずっと思ってるわよ!」
るちは立ち上がった。水鳥に面と向かって叫んだ。此処がベンチだとかまだ試合中だとか、そんなのはお構い無しだった。その言葉は彼女の本音だった。皆には、選手には、自由に笑ってサッカーしてほしい。でも思いだけじゃ、無理なことだって悔しいけどある。それはよく分かっている。だからこんなに苦しまなければいけないということも。
「るちちゃん…」
「でも駄目なのよ。気持ちだけじゃ貫けないことだって…!」
ベンチでの“戦い"と同じくして、ピッチでは“起きてはいけないこと"が起きていた。天馬と西園が栄都からボールを奪い、あろうことか、神童にパスを繋げようと奮闘していた。しかしフィフスのサッカーに従う神童は当たり前にパスを受け取らない。だが彼らは懸命にボールを神童に繋げ続ける。ボールは何度も何度も拙い弧を描き、神童に向かって伸びていく。
「あいつら…」
「松風くん、西園くん。どうして」
どうして、諦めないの?どうしてそんなに、真っ直ぐなの?彼女には―るちには―全く分からなかった。彼らにだって分かっているはずなのに。抗っても無駄だというのに。けれど、何処からか射す細い光によって鬱蒼とした心の曇りが晴れていく。小さな希望が見えた気がした。
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