マシュマロクライシス


翌日。部室には新入部員を含めた部員全員、顧問の音無に監督の久遠、サッカー部に関わりある人物全員が集まっていた。新入部員は部員たちと向かい合うように対面している。
今日の部活は部員たちひとりひとりの自己紹介から始まる。
神童が新入部員らに自己紹介するよう促す。すると「一番はお前だ、いけ天馬!」と、水鳥が天馬の肩をばしっと叩く。

その行動を見ていた音無が怪訝そうに「あなたは?」と水鳥に尋ねる。「あたし?あたしはこいつの私設応援団みたいなもんだから」そう言って、気にしないでいいよ、と彼女は笑う。すると一呼吸おいて天馬が一歩前に出た。

「松風天馬一年です!サッカー大好きなのでよろしくお願いします!」

ばっと勢いよく頭を下げ、天馬の少し緊張気味な自己紹介が終わった。西園のはきはきした挨拶も終わり、残るは壁に凭れた彼だけとなった。

「…次」
「次だ、聞こえないのか剣城!」

車田の怒号を嘲笑うように剣城は薄く笑った。

「剣城京介」

たった一言剣城は呟いた。ただでさえ危うい空気だった既入メンバーの雰囲気が一気に険悪になってしまった。その嫌な緊張感から速水は頭を抱えた。

「もう終わりだ…あんな奴が入ってきて…やっぱりオレたちを潰しに来たのかな」
「そうじゃね?」
「やっぱりおしまいだ…」
「浜野くん返事軽っ!」

「じゃあ次はマネージャーね」

音無が軽く手を叩き、続行を促す。

「空野葵、一年です。よろしくお願いします」
「山菜茜、二年です…ふふ…」
「じゃあ一応あたしも。瀬戸水鳥。二年だから、よろしく」

はきはきと言葉を発する葵。カメラを構えながらにこりと笑う茜。水鳥は持ち前の唯我独尊を発揮しながらの挨拶だった。相変わらずだなあ、るちは友人たちの挨拶にそんな感想を抱いた。
新入部員の挨拶が終わり、いよいよ既入メンバーの紹介が神童によって始まる。

「三年でGKの三国先輩と南沢先輩、車田先輩、天城先輩」
「よろしくな」
「「よろしくお願いします」」
「あとは全員二年で、倉間、霧野、速水、浜野。俺がキャプテンの神童だ。そしてマネージャーの…」
「悦田るち!二年生!好きな食べ物は鯛焼きと苺ポッ」
「以上だ」
「ちょっと!途中なんだけど!」

るちの言葉を遮った神童はこちらを一瞥することなく、部員の紹介を終えた。怒りでわなわな震えていると隣の倉間が意地悪そうに笑って小突いてきた。

「おい何一人で口走ってんだよ」
「そうですよ。悦田さんの好きな食べ物知ったって何の得にもなりませんよー」

倉間に便乗して速水もるちを小突いてきた。浜野はただ笑っている。彼女もにこりと三人組に笑みを返す。今日の倉間と速水のドリンクに変なもの混ぜてやろう。るちは満面の笑みを浮かべて、そう考えていた。

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