少女とピエロ


「うおおっ」
「うあっ、!」

フィールド内では神童の激しいプレーが今もなお続いていた。それを無表情で見つめる剣城の隣には苦虫を噛んだような顔をするマネージャー、るちの姿があった。隣に座る彼女の顔を一瞥しながら何故か剣城は彼女に妙な既視感を覚えていた。
深い髪の色、何処か飄々とした性格、瞳の色は違えど形や大きさがそっくりだ。似ている。本当にるちは“彼”にそっくりだった。初めて彼女を見た時“彼”が女に扮していると剣城は思ったくらいだ。違うところといえば、“彼”の性格は“純粋に人でなし”だが、彼女の飄々とした態度には変に“違和感”があったこと…

「剣城くん?」
「…っ、」
「私の顔になんかついてる?」
「いや、なんでもねえ…」
「あ、うん?そっか」

不思議がるるちの視線に気付き、剣城は慌てて視線をフィールドに戻した。天馬が西園にパスを出すが呆気なく神童にカットされてしまう。叩きつけられ、すでにぼろぼろの二人は必死にボールに食らい付いていく。

「神童くん、本気のプレーをするなんて…何を考えてるのかしら」
「さあな」
「さあなって…ていうかあなた私が先輩って忘れてない?」

剣城こんにゃろう。紺色の髪にるちはもう一度手を伸ばすが軽く避けられてしまった。そして一瞬、金色の瞳がじっと彼女を見た。その目は何故か悲しみを含んでいてるちは戸惑った。

「お前」
「…うん?」
「もしかして」

「うああっ!」

剣城のいいかけた言葉が天馬の叫び声で掻き消された。突然のことにフィールドに視線を戻せば、頭部に神童の放ったボールが勢いよく直撃したらしく、天馬は地面に伏していた。ころころと無造作に転がるボール。倒れた天馬の元に葵と西園が駆けて行く。

「た、大変!松風くん!」
「あっ、おい…!」

慌ててるちも天馬の元に走っていく。階段を駆け降りる彼女の背中を見た剣城は先程考えた事は自分の思い込みだったようだと感じた。やはり彼女は“彼”に似ていない。怪我を負った後輩の元へ駆け寄る彼女。“彼”はそんなことはしない。怪我を負い、ぼろぼろになろうが、それが友人であろうが恋人であろうが、剣城の知る“彼”はその光景を見てただ嗤っているだけなのだから。


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