記憶喪失→エゼル落ちif
生身ウォーズグロ注意
知らない映像が脳内を奔走する。そのフィルムの全てが自身の無くした記憶だということを認識するのに時間は掛からなかった。激しく痛む頭を押さえ、ルチは乱れ切った呼吸を整える。
思い、出した。思い出した。すべて。
「ルチ…?」
「…ひ、ヒカ、ヒカルくん…」
「っ、ルチ、もしかして記憶が…!?」
構えていた日本刀を下げ、ヒカルはルチの側へ這っていく。ルチの拳銃により被弾した両脚は血に濡れ、最早感覚すら失っていた。
記憶が蘇り、面のように冷淡としていたルチの顔にたちまち表情が生まれ始める。しかしそれは、ヒカルの求めたあの笑顔ではなく、青く深い絶望に濡れていた。
「わた、私なんてこと…ヒカルくんのこと、撃っ…やだ、やだやだやだ!ヒカルくんを、殺そうと、して…!?」
「ルチ落ち着け!僕は平気だ!だからっ…」
「や、やだああ…っ!!」
がたがたと震える右手をルチは必死に抑え付ける。手に収まるのはエゼルダームより支給された二丁拳銃の一つ。これで数多の兵士を殲滅してきた。簡単に命を奪ってきた。目前の彼さえ手にかけようとした。人の命を奪う殺戮の道具が今、此処にある。ならば、ならば。彼女は一つの答えに、辿り着く。
息が、重い。苦しい。呼吸が辛いと感じたのは生まれて初めての経験だった。右手は再び力を灯す。冷たく、硬い銃口を彼女はこめかみに充てがう。
終わらせよう全部。愛した人を手に掛けた罪に押し潰されて、消えてしまえばいい。
こんな私に価値は無いのだ。
「ルチ、何してるんだ…やめろ、ルチ!」
「ヒカル、く… 」
霞む視界の中でヒカルの頬に一筋の涙が見えた。あなたを傷付けて泣かせて、私って罪なおんな、ね。口角が少し緩く弧を描く。
最期の言葉は短い殺戮の音が、全て飲み込んでいった。