「ちょっとルチ!どういうことなの!?」

ウォータイム終了早々、ジェノックのミーティングルームに第四小隊隊長・キャサリン・ルースの声が木霊する。呼び止められたルチは颯爽と出口に向かう足を止め、軽快に踵を返した。ころんとした目を和ませ、なぁに?と悪びれもなく口にする彼女に、キャサリンは自身の中の怒気がじわじわと高ぶるのを感じた。

「あの戦い方は一体何!?」
「戦い方…?何か問題でもあった?」
「大アリよ!どうして…!?どうしてあんな大量にロストさせる必要があったの!」

キャサリンの甲高い叫声が一層空気を震わせ、ジェノック全ての人員の鼓膜を刺激する。隊員全員の視線が、自分とキャサリンに向けられたことにルチは気付く。
そして、目を眇めた。

今回の第四小隊に課された任務は我が国にとって重要な物資を指定場所へ運ぶというものだった。しかしその物資にジェノックにとって不利な情報があると漕ぎ着けた他国の兵士が略奪のために第四小隊に襲い掛かり、止むを得ず戦火を交えることとなった。
物資を持つユノの機体を中心に三機のLBXはユノを守る形で交戦することとなる。
軽快さを誇るキャサリンとハナコの機体・セイレーンが次々と敵をブレイクオーバーさせていく中、ルチだけは一切の容赦も無かった。
ルチの専用機・フォルトゥナが襲い掛かるガウンタをいとも簡単に分断してみせる。素早く動き、敵を制圧する姿は金色に輝く影のようで、小隊の長であるキャサリンさえもフォルトゥナの俊敏な機動を目で追えずにいた。

「ルチ!もう良いわ、撤退してユノの護衛に戻って!」
「駄目よ。全部倒さないと」
「良い?私たちの任務は物資の運搬!動けない敵に構うのは時間の無駄よ!早く!」
「…キャサリン、どうせ援軍が私たちを追ってくるわ。そうならないように、今ここで」

見せしめに壊しておかなきゃ。ルチの声がスピーカーから漏れたその瞬間、一機のガウンタは無残にその身を散らせた。



「貴女、これまで一体何機壊してきたと思ってるの…!?ロストさせたってことはつまり…」
「退学でしょ。知ってるわ、それくらい」
「貴女ねぇ!」
「キャサリン落ち着いて!」

咄嗟にユノが憤怒を滾らせたキャサリンを止めに入る。彼女の肩に手を置き、宥めながらユノは眉を下げてルチを見上げた。

「でもねルチ、あの戦い方は私も少し問題があると思うわ。どうしてあそこまで徹底的に敵を破壊しなきゃだめなの?」
「…一つは、皆を守りたいからよ?だって一度振り切った相手がまた襲い掛かって皆を傷付けたら嫌だもの」

ルチは屈託の無い笑顔で人差し指を立てた。それでもう一つはね。細い中指を更に突き立て、彼女は口を開く。

「予行演習かしら」



「あの子、なんでこんな惨い戦いばかりするの…!?」

ルチがミーティングルームから去った後、彼女を除く第四小隊は重い空気に包まれていた。キャサリンの今にも泣きそうなのをやっと堪えた、押し殺した叫びにユノの表情が曇る。ルチは優秀なプレイヤーだ。フォルトゥナを託されたのも彼女がシルバークレジット
を大量に獲得している功績である。フォルトゥナで先陣を切り、敵を圧倒する姿は同じプレイヤーとして羨望の対象だった。
しかしいくら優秀だろうと、彼女のやり方はやはり惨すぎる。どうしてあそこまで敵を粉砕しなければならないのか。
ルチは、ロストさせることに拘りを持ち、そして固執している。
それは第四小隊のみならず、ジェノック全体が把握していることだ。彼女のプレーを近くで見ていれば、嫌でもわかる。
――予行演習かしら。
ルチは何がしたいのだろう。彼女の不敵な笑みと共に送られたその言葉がユノの脳裏に再生される。
――あなたは、一体何を考えているの?
ユノの思考の片隅に浮かんだ問いは雲のように浮かんでいつしか空気に吸い込まれていった。答えてくれる人物はもう、目の前にはいないのだから。


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