【水衣となまえで近親相姦※】 ねえ水衣。部屋の明かりを消そうとスイッチに手を伸ばした時、水衣のベッドで身を横たわらせたなまえが呟いた。
「今日蘭ちゃんにおかしいって言われたわ」
「おかしい?何を?」
「水衣と一緒に寝たり、抱き合ったりするのが、おかしいって」
徐々に萎えていく声量に水衣は困ったような表情を浮かべる。電気を消す手を止め、浅くベッドに腰掛けるとこちらに背を向けるなまえの頭を優しい手付きで撫でた。彼女の鮮やかな色の髪を弄ぶように指先に絡めては梳く。絹糸を思わせる柔らかいそれを一束掬って顔に近付ければ、花とも果実ともいえぬ甘い薫りがして、水衣を僅かばかり酔わせた。
「水衣とこんな事するのはいけないことなのかしら」
「どうしてそう思うの?」
「だって、水衣はお兄ちゃんだから。こんな事するのはきっと、血の繋がりのない人とするんだと思うの」
ブランケットに包まれた小さな肩が小刻みに揺れる。ああ、泣いているのかもしれない。水衣は出来るだけ優しく、愛すべき妹の名を呼ぶ。戸惑いながら上体を起こすなまえの桃瞳はやはり潤みを帯びていた。
「なまえは僕の事嫌い?」
「ううん。好きよ」
「じゃあ、こういう事するのは、嫌い?」
細い肩をそっと自分の方に引き寄る。すっぽりと水衣の薄い胸に収まるなまえの身体はやはり少女そのものだ。乱暴に扱えばすぐにその身も、心も粉々に砕けてしまう、硝子の人形。そうっと、そうっと水衣は彼女の腰に腕を回す。
一方なまえは華奢な身体つきから想像もできない頼り甲斐のある腕の中で愛しい少年の心音に耳を傾けていた。
二人の鼓動が重なって、同じ時を刻み始める。
「蘭ちゃんがなんと言おうと僕らはおかしくないよ。おかしいかもしれないけど、僕はなまえが好きで、なまえは僕が好きなら、何もおかしくないのさ」
「なあに、それ。変なの」
「変で良いよ。異常なのが僕らの『正常』なんだから」
「ふふ、そうね。そうかもね。少し、変わってるくらいが丁度良いわ」
顔を仰げば優しげに自分を見つめ返す翡翠の相貌を視線が絡む。同じ顔付き、けれど全てが違う、なまえの世界の中心ともいえる少年。水衣はきっと魔法使いなんだわ。なまえの言葉に水衣は可笑しそうに笑んだ。
「魔法使いか、それは嬉しいね」
「そうよ。きっと水衣なら『おかしいこと』も全て正してしまえるわ」
「ふふ、なまえのお望みとあらば、何でも変えて見せるよ」
芸術を思わせる美しい笑みがなまえに降り注ぐ。貴方のその笑みもきっと魔法なのだろう。先程まで不安で濡れていた心はいつの間にか乾き、代わりにこんなにも幸せに満ちている。
ああなんて幸福で、なんて不幸なのでしょう。
再び潤み出す桃を隠すように瞼を閉じて、なまえは世界で一番優しい口付けを待った。