「フカマル、砂地獄!」
「フカ!」

フカマルから発せられた砂嵐が2体のミネズミの視界を完全に遮断した。ミネズミ達を捕らえた巻き起こる嵐はその強力さから周囲の者達の視界さえも阻む。気を緩めれば吸い寄せられそうだった。――フカマル、手加減なしね。メルカは不適に笑う。必死に腕で防御しつつ、メルカは隣に立つトウヤと視線を絡ませた。

「トウヤくん、今!」
「ああ!…フタチマル!シェルブレード!」

メルカとトウヤの声に反応したフカマルは一瞬だけ砂地獄の威力を緩める。ぱっと開けた視界、そこへ水流を帯びるホタチを構えたフタチマルがミネズミ達に切りかかる。フタチマルの腕は大きく一文字を描き、ミネズミをプラズマ団側へと吹き飛ばした。地面に伏したミネズミ達は目を回している。――もう戦う力など残ってはいまい。メルカは勝利を確信した。

「ちっ!」
「さあドラゴンの骨を返せ!」
「ふん、素直に降参するとでも?」
「これは我等が王の探し求めていたもの。易々と返す訳にはいかない!」
「――もう良いのです」

老人の声がした。暗がりから派手な装飾のマントに身を包んだ初老の男がゆったりとした足取りで現れた。七賢人様、とプラズマ団の男が言葉を漏らす。老人は少しだけ和やかな表情を浮かべた。

「調べたところどうやらその骨、王の求めているモノではなかったようです。彼らにお返しなさい」

命令通り、団員は渋々骨の入った厚手の袋をメルカとトウヤに向けて投げた。二人を見つめる老人は先程の表情は一変し、瞳に冷たい光を灯し二人を睨んだ。

「我等プラズマ団に逆らうとは何と愚かな。我等の行動が何れ程素晴らしいものか、あなたたちには理解出来ないのでしょう。嘆かわしい」
「何が素晴らしいだ!ポケモンを苛めたり盗みを働いてるだけじゃないか!」
「ほう…良いでしょう。もうそのような愚かな事が出来ぬよう…ここで潰して差し上げます」

――どくん。

殺気に似た強い気迫に思わずメルカは身構える。ポケモンを出す気配は…ない。メルカは背中に大きな悪寒を感じた。彼はバトルで自分達を制するのではない。本当にそのままの意味で自分たちを潰す気だ。――どうする?メルカの額にの汗が滴る。

「子供に手上げるのかい?やることが汚いねぇプラズマ団」
「アロエさん…!」
「トウヤくーん、ドラゴンの骨は…取り返せたみたいだね」
「アーティさんも!」

アーティ、と呼ばれた青年とアロエ、二人の手にはモンスターボールがある。敵の様子を伺うようにじり、と距離を詰めた。分が悪いですね、老人は罰が悪そうに顔を歪めた。
老人はマントを翻し、プラズマ団員を引き連れ素直に引き下がった。三人の影は森の色に同化し消えて行く。追い掛けるかい?アロエは傍らのアーティに尋ねる。

「いやあ…盗まれたホネは取り返したし、あまり追い詰めると何をしでかすか分かんないですからねぇ」

大丈夫?顔が真っ青だよ。その声にメルカがふと横を見ると、トウヤが心配そうに眉を下げていた。何処と無く身体全体から血の気が引いていく感覚を覚え、極めて強い緊張がメルカの身体にまだ張り付いているようだった。唇は乾燥し、頬の筋肉はかちかちに固まっている。
フカマルがよじよじとメルカの身体を上り、肩に座る。先程のバトルとは一変し、彼女は一層弱々しい声で鳴いた。大丈夫だよとメルカはフカマルの頭を撫でるが、彼女の声はどうしても、いつもの明るいものには戻らなかった。


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