Nと別れ、ベルと合流したメルカは彼女と共に三番道路の草をがさがさと分け、あるものを探っていた。
「メルカごめんねぇ」
「大丈夫。気にしないで…」
「はあぁ、どこ行ったんだろう。あたしの帽子……」
そう、ベルの帽子である。彼女のトレードマーク、若葉色のベレー帽が道端で転んだ時、頭から離れた拍子に風で飛んでいってしまったらしい。しばらく一人で探していたら、三番道路のあの庭園に辿り着いてメルカを見つけた、という。困り顔のベルからの捜索依頼にメルカは二つ返事で了承した。一人より二人で探した方がすぐに見つかるもの、とメルカは微笑んだが、一口に三番道路と言っても結構な広さで中々見つからずにいた。この地には池もある、帽子が池に落ちてなければ良いが。
「ああー!」
「えっ、なに…?」
「あたしの帽子!!」
ベルの指差した方向にはベレー帽があった。少し土で汚れてしまっているが確かに彼女のものである。しかし、様子がおかしい。風など吹いていないのにひとりでに動いているのだ。もぞもぞと動き、ひょっこりと草影から身を乗り出したのは茶色のポケモン、ミネズミであった。ミネズミがベレーを被っていたのだ。
「ミッ!」
「あっ待ってえ〜!」
「え、え、ちょ、ベルちゃ…!」
ミネズミを追って走り出したベルの後をメルカも追う。小柄で身軽なミネズミの足はかなり速いがベルも負けてはいない。一体どうしたらあんな走り難そうなスカートであそこまで走れるのだろうか、メルカとベルの距離は確実に遠くなりつつある。視界から消えていきそうなくらいであった。
「フカマル…!」
「フ?」
「私も、追いつ…きゃん!」
瞬間、足の浮遊感と共に空が反転し、強烈な鈍い痛みがメルカの顔面に走った。――こけた、こけたのだ。フフカ?頭上から主人を呼ぶフカマルの声がする。
「…先にベルちゃんを追いかけてフカマル。私もあとから行くから」
地面に突っ伏した状態でメルカはフカマルにそう指示した。なんと間抜けなんだろうか、メルカは心の内で涙を流す。
*
数十分後。心身の痛みと闘いながらメルカはベルの駆けた方向、三番道路のゲート前まで走った。其処にはトレードマークの若葉の帽子を取り戻したベルがメルカを待っていた。フカマルが嬉々として主人を呼びながら手を振っている。もうミネズミの姿はなく、傍らには彼女の相棒のポカブが佇んでいた。大事な帽子を取り戻したベルは心底ご機嫌で、ゲートを潜りながら身振り手振りを交えて事の経緯をメルカに話した。
「それでねぇ、ミネズミに飛び掛かったの」
「ポカブが?」
「ううん、あたしが」
「え」
彼女曰く飛び掛かろうとした時、身の危険を察知したミネズミが帽子を置いて逃げるように立ち去ったという。ベルの意外すぎる身体能力の高さに唖然としながらゲートを出るともう其処は目的の町、シッポウシティであった。
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