短編 | ナノ
暖かくなってきたなーと伸びをしながら、私だけのお気に入りの場所に行く。
そこは私が入学してからすぐに見つけた場所で、私以外の人がここに来たことは一度もない。それなのに、私の目の前には男の子がいた。
……同じクラス、学年では見たことのない男の子。先輩か、はたまた後輩かのどちらかで私はよく見るために男の子に顔を近付けた。
白い肌、長い睫毛、綺麗な瞳。って、瞳……?
「うわっ!」
男の子と目が合って、驚いて後ずさる。
そんな私を静かに見つめてくる彼。私は自分の失態を見せてしまったことへの恥ずかしさからか顔が熱くなった。
「……なに」
不機嫌なその声は男の子が発したもので、私は手を上げたり下げたりしながら弁明しようとした。
「あの、えと、その」
「日本語もまともに話せないの?」
「あ、いや、う」
はぁ、と大きなため息をつくと男の子は私に近付いてくる。
そして、腕を引っ張っるとチュッと可愛らしい音を立てた。私の唇で。
「……は?」
すぐに離れた彼の唇は、妖しく上がっていてそれがなんだかとても綺麗に見えてしまった。
男の子は立ち上がると踵を返し、顔だけを私のほうに向ける。そして、またニヤリと笑う。
「みょうじ なまえ、またね」
その言葉だけで、私は彼に射抜かれてしまった。
三年の夏に私は恋をした。