短編 | ナノ 「……はぁ」
ため息を吐いて、教室の窓の外に目をやる。
空は灰色になっており、しとしとと雫が校庭の土を濡らすのが見えてまたため息を吐く。
「雨、すごいね」
隣の席の沢田綱吉くんは、授業中だからかこっそりと私に話しかけてきた。
ダメツナなんて呼ばれてた彼は人と話すのがあんまり好きではなかったような印象がある。何も答えない私に気分を害したのか、沢田くんは困ったように笑った。
「傘、持ってきた?」
その問いかけに何故か嬉しそうにする彼は、少し変わっているかもしれない。なんて、失礼なことを考える。
「持ってきてるよ」
「なら安心だね」
「みょうじは?」
私の口からまたため息が出た。
そう、傘を持ってきてないんだ。さっきからずっと窓の外を見ては雨が止まないかと期待している。
さっきのまま笑顔でこちらを見てくる沢田くんに私は言った。
「持ってきてるから大丈夫」
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