短編 | ナノ 教室で話しながら日誌を書いていた時だった。

「ねぇ、君たち」

ふと聞こえた声の方を見てみると、風紀と書いた腕章をしている男の子がいた。

「とっくに下校時間だよ」

同じ日直の子はそう言われるやいなや、すぐに帰りの用意を済ませて、私に挨拶をすると日誌を持って教室を出て行ってしまった。
私と風紀委員の子だけが残っている教室。

「君は帰らないのかい」

イライラとしているのか、そう言った彼は眉間にしわを寄せている。
とりあえず、急いで帰りの用意をする。

「……あ」

教室から出ようとした時、ふと血の匂いがした。彼のほうを見ると、学ランでわからなかったが腕から血が流れているのに気付いた。

「なに?」
「ちょっと、待ってて」

彼に言って、トイレへと走る。ハンカチを水で濡らして教室へと戻った。

良かった。彼はまだそこにいてくれた。

「これ、使ってください」

ハンカチを差し出しても彼は受け取らない。仕方なく、私は彼の血をハンカチで拭う。

「……勝手なことしないでくれる」

手を叩かれてしまった。それでも、私はまた彼の血を拭う。

「あの」
「早くやめないと咬み」
「やめてください」

彼の言葉に被せてニッコリと笑う私。
少し驚いたように目を瞬かせている彼は口を閉じた。

静かな教室には私と彼だけだ。





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