短編 | ナノ *こちら、ちょこっと大人向け表現になっています。
私には苦手な人がいる。
「なまえ」
愛しく、甘く、囁く、そんな呼び方ではない。
極めて普通になんでもないように私の名前を呼んでいる。それなのにどうして。
「……なんですか、雲雀恭弥さん」
「なんでもない」
口の端を上げながら男、雲雀恭弥は目を細めた。
恋人でもないただの元同級生の私にやたらと構いたがってくる。
わざとらしくため息を吐くも、雲雀には効果がないようで意地の悪い顔をしたままだ。
「毎日毎日!あなたは暇なんですか?」
「忙しい合間を縫って君に会いに来てるんだけど」
「はいはい、じゃあ忙しくしててください」
しっしっと手を振るもその手を取られた。
だんだんと雲雀の指が絡まってくる。
手を引こうとしてもびくりとも動かず、指だけが慌ただしく動く。
やがて雲雀の手が私の手を握ってしまった。
「離してくれませっ」
私が離せと雲雀の顔を見た瞬間、手が引き寄せられた。
next