短編 | ナノ いつものように放課後の見回りをする。
もちろん、なまえが何をしているのかを確かめるため。
「……ふぅ」
理科準備室の扉の前、そっと耳をすませてみると中から声が聞こえた。
彼女は一人でいるようで安心する。
きっと忙しいんだね、今日の書類を片付けているのかな?なまえのことならなんでも知りたい。
そう思っていると、ドアが音を立てた。
「雲雀、くん?」
僕の前にはなまえが驚いた顔をして立っていて、彼女の吐息が僕にかかる。
これだけで逝ってしまいそう。
「雲雀くん?」
「……ねぇ」
「どうかしたの?」
「……みた、に……で」
言うつもりはなかった。
でも、つい声に出てしまったんだ。なまえに雲雀と呼ばれたくなくて。
なまえは心配そうに僕を見ると、困ったように笑う。
そして、優しく頭を撫でてくれた。
「大丈夫だよ」
違う。
僕が欲しいのはそんな言葉じゃない、そんな温もりじゃない。
「雲雀くん」
ねぇ、僕のこと思い出してよ。
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