短編 | ナノ 「実はオレ」
下を向くと、沢田くんは赤い顔を必死に隠すように目を瞑った。
彼が言葉を発するまでお弁当を食べながら静かに待つ。
「こんなこと、急に言われても困るかもしれない」
一体、彼は何を言おうとしているのか。
思わず固唾を飲み込んだ。
「オレ……笹川京子が好きなんだ!!」
大きめの声が空き教室に響く。
体を震えさせている沢田くんは、恐る恐る私を見る。そんな彼に私は笑った。
「沢田くん、クラスのみんなが知ってると思うよ」
失礼だとは思ったが、事実だ。
沢田くんは笹川さんに公開告白をしている。クラス、いや学校全体に知れ渡っているかもしれないくらいに有名だ。
さっきまで緊張していたのがなんだか可笑しくて、私はまた笑う。
そんな私に沢田くんはあたふたとしながらブツブツと何か言っていた。
「大丈夫?」
「え、あ、うん……」
「でも、どうしてそれを私に?」
聞けば、彼は頬をかきながら勘違いしたと眉を下げて笑った。
どんな勘違いをしたら、私にこの話をするんだろう。なんて思ったが、百面相する彼を見ていたらまた笑顔になる。
外を見ると、もう雨は降っていなくて5限目の予鈴が鳴った。
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