短編 | ナノ あれからというもの、私の周りには人がいなくなった。
今まで仲良くしていた友達さえもよそよそしくなってしまって、私は彼を恨まずにはいられない。
私にあんなことをしといて、彼が私の前に現れることはなかった。
少し、いや、すごく腹がたつ。
「なまえ」
廊下を歩いていると、前から彼が向かってきた。
私はすぐ近くにある教室に隠れる。なんで隠れないといけないんだろう。なんて考えたけど、頭を振る。
「それで隠れてるつもり?」
「え、うわっ」
「ワオ、積極的だね」
肩を掴まれ驚いて振り向いた結果、彼の胸に顔をぶつけてしまった。
クスクスと笑っている声が聞こえる。本当に私が何をしたと言うんだ。
「あの」
「どうしたの」
「私、何かしましたか?」
顔をあげると思いの外彼が近くて心拍数が上がる。
私のそんな質問に彼は一瞬考えるような素振りを見せて、力強く抱きしめてきた。
「あえて言えば」
私の肩に顔を埋めて、彼は続ける。
「初めてだった」
小さく呟くと、顔をあげて私を真っ直ぐに見る。
「君と、もっといたいと思った」
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