短編 | ナノ 目の前には階段。
あとはここを登れば着く。
「……はっ、は」
肩でしていた息をゆっくりと整える。
ドクドクと激しかった心臓も段々と落ち着いてきた。
小さく息を吐いて下を向くと、上履きだったことに気付いた。
いや、これは恥ずかしすぎる。
でも今更戻ることもなんだか気が引けてしまい、とりあえず一段目を踏んだ。
ゆっくりと確実に上に向かっていく。
三分の二ほど登ってやっと見えてきた建造物に嬉しくなる。
鳥居をくぐった瞬間、地面にへたりこんでしまう。
「もう、動けないぃ……」
体はしんどいはずなのに頬が緩む。
つめたい風が火照った肌に心地良い……なんて少し詩的なことを考えた。
ここではじめて雲雀に出会ったんだ。
まさかこんな離れがたくなるなんてあの時は思いもしなかったな、なんて。
顔を上げると雲雀が私の前に立っていた。
「なんで、ここに……」
凄く間抜けな顔をしていたのだろうか、雲雀が視線を逸らした。
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