パチン、金属がはぜる音がして折り畳みナイフの先は俺に向けられる。磨がれた表面に映る俺の顔は動揺などしていない。すっかり彼のこの性癖に慣れてしまったからだ。レッドは少しつまらなさそうに俺を見た。冷静な俺は行為に及ばれるのを待ち、目を細める。今更馬乗りされてナイフをかざされた位で慌てふためく事は無い。呼吸が深い今を味わい溜め息をついた。

「…するのか?しないのか?」
「グリーンってば、すっかり余裕が出ちゃって面白くないよ」

いつも見せる笑顔を他所に、シャツの襟元にナイフを引っ掛けられ其のまま下まで手を滑らされると俺の服は真っ二つ。布が裂ける鈍い音が響く。糸から切断された釦は床に軽い音を立てて転がっていった。脱がせるよりこうやって破く方が興奮すると彼は言う。同意の強姦ごっこに俺も慣れてしまった。意図的なのか、稀に俺の肌まで浅く切ってしまった時には其処を執拗に舐めるから、俺はこいつがよく解らなくなる。ごめんねと傷を癒す一面と満足感に浸った様な顔が紙一重のラインで見え隠れするものだから。裂けた服は彼を興奮させるらしい。釦を外す少しの手間暇を省いて、一瞬で裂ける服に彼が何を求めているのかは知らないが。解れた糸が刃先に絡まっている。まるで俺みたいだと思った。俺を見下すレッドがナイフで、いつ裁ち切られるかもわからないのに彼自身に絡まる糸が、俺にそっくりだ。こんな事されても逃げ出さない自分はよっぽど必死なんだろう。時々性欲って何なのかと考える。日中は周りに笑顔を振り撒いて、真っ直ぐな眼差しを見せる彼が夜になったらこの様だ。俺を組み敷いて、見つめる先は俺の呼吸をどれだけ掻き乱すかという事に。情欲に固執して、彼は今日もナイフを滑らす。


「つまんねぇの」

動揺も震えもしない俺をそう称してから、髪と頬に触れて彼は淡々とそう告げた。

「…だったらお前のやりたい様にやればいい」
「よく言うよ、俺が怖い癖に」

そのまま指先は輪郭を伝った。首筋、鎖骨と順に撫でていき、その肌の上に置かれたネックレスの紐を掴んだ。束ねた指に巻かれた紐がグローブに食い込んでいる。さっきのナイフを思い出した束の間、次に強く上にそれが引かれ一瞬で喉が圧迫された。塞き止められた酸素の代わりに溢れた少量の涙が革製のソファーに跳ねる音がして、呆気なく飛び散った釦が頭を過った。痛いとか、苦しいとか、有無を言わせないナイフに俺は身体を開かれる。それでも必死に刃先に絡まる俺はなんとも滑稽だ。


パチン、金属がはぜる音がして折り畳みナイフの先は俺に向けられる。切られたのはネックレスの紐だ。一気に掻き込まれた酸素は目眩を起こして視界を歪めた、彼は笑っている。定かでは無いけれど、俺の目には確かにそう写った。


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