どうしてこの人を好きになってしまったんだろうか。好きになったことをこれ程後悔する事になるだなんて。俺はグリーンさんが未だにあの人の事を思っているのをわかっていながら告白して親密な仲になった。表面上は。一定以上の距離を保とうとするグリーンさんと、踏み込もうとする俺。曖昧で、けれど確かなラインに、上辺だけの好きをなぞって巧く誤魔化すのが得意な彼は口先だけで好きと言う。


「俺、上辺だけの好きはいりません」
「生意気なやつ、お前に俺の何がわかるんだよ」
「言っておきますけど…俺はグリーンさんが思っているより子供じゃないつもりですよ」


確かにグリーンさんは自分の本心を隠す事が他人の数倍上手い。普段が表向き表情豊かで、よく喋るし、気遣いもできる。でもその裏側で笑っている時も悲しんでいる時もあの人の事を考えている。どうしてわかるのかと言われれば、曖昧にしか答えられない俺だけど、その時グリーンさんは懐かしむような、後悔している様な眼をしているのだ。それが誰よりも傍に居てわかった事だなんて本当、喜んでいいのか複雑な気分になる。それでも俺は、


「好きです、グリーンさん」


彼にこう言う他が無かった。


「…知ってる」
「両想いで、恋人ですよね?俺達」
「そうだな」


淡白な返事に手が伸びそうになる。どうにもならないんだったら、いっそ滅茶苦茶にしてしまいたい。


「…だったら、抱かせてください」


緑の瞳がぐらりと揺れる。けれど動揺がその水晶膜の中だけで収まって、身体は一分も震える事は無かった。言えばいいと思った、自分はあいつじゃないと嫌だと。いっそ突き離せばいいと思ったのに、グリーンさんはそれさえも裏切って自嘲して黒のワイシャツの釦に手を掛けた。


「いいぜ?…抱けよ、俺を満足させてみろよ」


シャツが左右に割り開かれていく。どうして拒否して欲しいのにそうしてくれないのか。受け入れて欲しいのにそうしてくれないのか。意地悪な人だ。それでも彼への好意が掻き消されることは無かった。俺をグリーンさんを後ろから抱きしめ、しなやかな背中に耳を宛てた。傷一つ無い背中に、掌をそっと這わす。彼は何も言わない。只心臓の、平常な音が鼓膜に伝わっていくだけ。俺にこうされても心音一つ乱さない彼を感情のままに押し倒した。手首と手首を重ねて、いつまでレッドさんが好きなんだと聞いた。その時の張り裂けそうな表情を見えないフリをして、今この人を抱くのは自分自身なんだと言い聞かした。それが彼の身体に手を出した言い訳のような動機だった。
グリーンさんは決して自分から求めず、かと言って俺を拒んだ訳でもなかった。日常のジレンマを晴らしたかったのに、セックスまでこうだと流石の俺も参ってしまう。生半可な優しさにだけ触れさせて自分の心には触れさせない。お互い身体だけがどうしようもなく熱くて、夢中になって貪って数えきれない絶頂を味わった。何度彼を抱いたら気が済むのだろうか。快感で曇り始めた意識の中でふと思っていると、彼が喘ぎ声混じりにあの人の名前を呼んだ。目は閉ざされていて、俺を見てはいない。俺は何も言えなかった。気を紛らわす様に彼の中を抉り続ける他が無かった。
窓ガラスに寄り添った夜露が筋を作って流れ落ちていく。必然的に視界に滲みて怖い程情事の熱を奪っていった。





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