その瞬間僕はこれと言って何も感じ無かった。だけどグリーンは唖然と一点を見つめて動かない。もう動く事の出来ない彼の手持ちは僕達の関係にちょっとした終わりを告げた。高みの頂点に立った彼を引きずり下ろしたのは紛れもない僕、グリーンは僕に何時ぶりかの涙を見せる。涙を堪えているのは表情から十分に読み取れたけど、それも報われずに流れたものが服や地面を色濃く汚していった。

「…なんで…おまえばっかり…!」

ゆっくりと彼の近くに寄ると息が途切れ途切れなのが痛々しい程伝わる。しゃくり上げる喉元と一緒に肩も吊られて彼は弱々しい小動物の様に震えていた。

「泣かないでよ」
「……泣いてねーよ、ばか」

泣いてないなんて今の状況でよく言えるなぁ、と少しの呆れも垣間見えた。泣き顔をずっと覗き込んでいるとこっちを見るなと言わんばかりに後ろにそっぽを向かれる。小さな頼り無い背中は未だに震えていて広いステージに控えめに泣き声が広がっていった。悪いことをしたなんて思っていないし、これで正しかったのだと思う。僕は僕なりに頂点を目指していたし、仲の良い彼も蹴落とす覚悟でいたけれど。今だけはそれをなんて表せばいいのか。後悔、同情、それとも…?色んな言葉が頭に浮かんだ。けれど僕の感情は選び抜いたどの言葉に当てはまることは無く、気付けば僕は彼を後ろから抱きしめていた。

「…泣かないで」

同じ言葉を繰り返しただけだった。回した腕に涙が染み込み痙攣が細かく伝う。何かが伝われば、僕の思いが伝わればそれで良かった。その感情が何かなんて今の僕にはわからないのだけれど。


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