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「兄上、兄上。頼むから心は死んでなどいないとそう言ってはくれないか。」


「……廻谷君は死んだのだ…新選組の敵である倒幕派の者に殺された……すまない名前、母と父にお前を悲しませないと誓ったのにその誓いを破ってしまった!すまない、すまない…!」


兄上の肩越しに見える倒れた体。その上に誰かがかけた藁から出ている真っ白な傷も何もない腕。



嗚呼、確かによくよく見てみればあれは心の腕だ。

では死んだのか、死んでしまったのか。きっとあれに触れれば冷たくて生気など感じられないのだろう。
知ってるさ、新選組にいれば嫌でも死体を目にする。
時にはぐちゃぐちゃになったやつも見た。
別に親しくもなかったやつの死だ、嘆きもしなければよく頑張ったと感嘆の意を思うこともない。

俺は最低の人間なのだ。親しくない奴が死んで思っていたことを口にすればきっと俺は捨てられることだろう。それほど最低で最悪で汚い人間だ。



よかった兄上じゃなくて。
よかった土方さんじゃなくて。
よかったよかった総司や一くんじゃなくて。
ほんとによかった左之さんや新八さんじゃなくて。
ありがとう平助や烝くんじゃなくて。
ほんとにありがとう。
俺の大切な人達の代わりに死んでくれて。




「なんで、俺に親しくない人間が死なないで俺に親しい人間が死んだんだ……他にもいっぱい人手なしや、屑なやつがいるっていうのに、なんでそいつらじゃなくて!心が!何も悪くない、何も知らない、あいつが!死ぬんだ!!」


「ひでぇよ神様…あんたなんのために心を俺の前に表せたんだ。今まで一度だって神様なんざ信じて来なかったからか。そんなに俺が憎いのか。なら俺を殺せよ、汚れた俺を殺せよ!」


嗚呼、嗚呼、最悪だ。

やっと愛を知った、初めて人を好きになった。こんなにも人を好きになることはもうないとまで思った。


そして、好きだと何も言えないまま俺の恋は幕を閉じた。



「兄上、後生だ、俺の頼みをどうか聞いてくれないか。」

「…一体何を………?」


小さな小さな声は俺を強く抱きしめる兄上にだけしっかりと届いた。

「!聞かんぞ!その頼みだけは絶対に聞かん!!」


俺を抱きしめる兄上の腕にさらに力がこもる。
俺じゃなきゃ肋の数本軽く折れてるほどで力の加減というのを知らないお人だ。


「兄上、頼む。どうか俺を、」




俺を、殺してくれ




一番俺を愛し、支え、宝物のように扱ってくれたあなたの手で俺は死にたい。



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