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あいつはいつだって泣いたことがねぇ…。
別に情がないっていうわけじゃない。怒ったり笑ったりする、だが涙を流すということがあいつには…近藤なまえにはなかった。
俺がなまえに出会ったときはもう女の格好はしていなかったが、女の格好をしていなくてもなまえの美しさや女の格好をしていたときのお淑やかな物腰は消えなかった。
そう、一目で惚れた。
「将来俺の子を生んでくれねぇか?」
「くたばれ変態。」
俺の告白は八文字の言葉により切り捨てられた。
その後からというもののなまえは悉く俺を避け、会っても警戒して睨まれる。
それがまるで懐いてくれない猫のようで可愛く見えてしまうあたり俺も末期である。
「お、おい!」
「?」
ある蒸し暑い日のことだった。
なまえ自ら俺に話しかけてきたのだ。
「お前に聞きたいことがある。」
「お、おう!なんでも聞いてくれ!」
なまえが話しかけてきたことがあまりにも嬉しくて思わずでかい声で返事をしてしまった。
「その、恥を承知でお前に聞く。どうすればお前みたいに筋肉がついて背がでかくなるんだろうか。
この通り俺の見た目は女のように肌は白いし細い。こんな体ではいつまでたっても男としてお天道様に顔向けできないと思ってる。
それに兄上のように立派な武士にもなれないだろう……。俺はお前みたいな体に憧れているのだ!教えてくれ!」
俺の着物をきゅっと握り俺の顔を見上げながらなまえは俺に話す。そう、それは男心を擽るにはうってつけの行動。
好きなやつにこういうことをされて理性を保っていられるようなことができるだろうか。
答えは誰もが否、と答えることだろう。
だが俺は…!
「い、いいかなまえ。お前の容姿はむしろ弱点ではなく武器として使えるんじゃないか?」
「俺のこの女みたいな見た目が、武器に?」
「そうだ、考えてみやがれ。お前を見た敵は油断するだろう…だがなまえは本当は強い。その隙をついて攻撃する。これは立派な武器だ!」
「な、なるほど!だが俺はこの見た目を改善したいのだ!」
「なまえ、自分の弱点を有効に使え。考えてみろ、新八なんていつもはふざけているがここぞというときには実力を発揮する。弱点に見せかけてそれを使いみんなを騙す!これぞ新八の武器!」
「おぉぉおお!!新八さんすげぇぇえ!」
興奮したなまえはキラキラとした目で俺を見てがしりと両手なまえの小さな手で包まれた。
「えと、原田さんありがとう!俺もう少しこの見た目に自信持ってみるよ!」
「お、おう!解決したならよかったぜ!」
そして去っていくなまえの背中を見つめ、これをきっかけに仲が深まったことを喜んでいる俺がいた。
美しき君を愛でよ
にしてもなまえって実は結構馬鹿なんじゃねぇのか?
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