「うーん」

白と黄色いアヒル見つめて、にらめっこ。
どっちも可愛くて、どっちも欲しいと思うけど、予算諸々を考えると買って帰れるのはどちらか片方だけだ。
どっちにしようかな。
定番の黄色?それとも、王冠乗っけた白?
悩むなぁ…

「おーい、梅雨。こっちは買うモン決まったけど……、って何見てんだ?」
「三郎、邪魔しないで…私は今究極の選択を迫られている最中なの」
「はぁ?」
「白と黄色、どっちにするか…うーん」
「あほくさ…」

買い物かごに必要な物を詰め込んだ三郎が、入浴雑貨コーナーの前でうんうんと悩んでいた私を見て、小さな溜息を吐いた。
別にいいもん。
三郎に理解してなんて言ってないし、これは私の問題。
どっちにするべきか…

「迷ってんなら、両方買っちまえばいいだろ?」

空気を読まない三郎の発言が投下される。
私は三郎の方を向かないまま、膨れっ面をした。

「両方欲しいけど、予算があるんですー」
「なら俺がどっちか買うよ。そしたら悩まなくていいだろ?」
「え?買ってくれるの?」
「まぁ…これくらいなら、」
「嘘みたい…三郎が神様に見える」
「って、オイ。それはどういう意味だ」

全く梅雨は…なんて零しながら、ちゃっかり白と黄色のアヒルをかごの中に入れる三郎。
私は先を歩く三郎の手に自分の手を絡めて、少しだけくっつくように寄り添った。

「…何だよ」
「んーん、お揃いって嬉しいなぁと思って」
「言っとくけど、俺が入る時はあれ浮かべてるなよ」
「何それ!三郎も買ったんだから、ちゃんと浮かべようよ!」
「はぁ?い「嫌だなんて言わせないからね?」
「………」

押し問答の末、三郎が黙った。
まぁ、見た目はクールでカッコイイ三郎がお風呂にアヒルを二つも浮かべてるなんて、有り得ない光景だけど…
それはそれでいいんじゃない?
中々可愛いかもよ。

大量に買った荷物を車の荷台に乗せて、次はどこに行こうか。
食器屋さん?CDショップ?それとも…

「ばか。先に家具屋だろ。ベッド買わねぇと」
「あ、そっか」
「さすがに二人でシングルだとキツイからなぁ」
「どーんとキングサイズでも買っちゃう?」
「部屋に入らねぇって」

くすくす笑いながら、ショッピングモールの中を歩く。
手は繋いだまま。
互いの薬指には、小さな指輪が輝いている。
三郎が、私の誕生日にくれたものだ。
毎日付けるのはまだ慣れなくて、でも、ずっと付けていたい。
私と三郎がいつまでも一緒、という証だから。

「落ち着いたら、みんな呼んでパーティーしたいね」
「そん時は部屋が汚れるの覚悟だな」
「もちろん、片付けもしてもらうよ。そう…雷蔵も呼んでさ、」
「梅雨…」

三郎の手が、私の手を強く握った。
どこか不安そうな目で私を見る。
そうね、雷蔵とは私も三郎も色々あった…大変な目に遭わされた。
けど、やっぱり私たちは大切な友達で、親友で、幼馴染じゃない?

「大丈夫…きっと、大丈夫だから…」
「………」

不安は残る。
地獄だった日々。
でも。

「三郎が、ちゃんと側にいてくれたら、私は絶対に大丈夫だよ」
「……あぁ、」
「三郎も、雷蔵と仲直りしなきゃね」
「それでも俺は、雷蔵を許せない…」
「許さなくていいよ。私も許すことなんてできない。でも、人は一人で生きていくことなんてできないんだから」

雷蔵を、一人にしておくこともできない。
私と三郎にとって、大切な人だもの…




ちらちらと白い雪が降り出した。
赤い鼻を擦ったら、三郎に子供みたいだと笑われた。
そういう三郎こそ、ほっぺたがりんごみたいだよ。

「ずっと一緒」
「うん」
「死ぬまで、離れないでね」
「死んでも離さないさ」
「そしたら私たち、天国でも一緒にいれるかも」
「きっとな」

暖かな春を待ち望みながら、私たちの暮らしは一歩ずつ始まってゆく。



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