「ふふ、今日はどうだったかな。そろそろ僕の子を孕んだ?」

嬉しそうに私の腹を撫でる雷蔵は、まるで我が子を見るような愛おしそうな眼差しで、そこに耳を押し付けた。
馬鹿みたい。
そんなことをしても、何も聞こえる訳ないのに。

でも、こんなことを続けていれば、いつかはそうなってしまうことも事実で。
私は雷蔵に逆らえずに、されるがままでいた。
下手に動けば、監禁されるのは目に見えている。
雷蔵がそう言ったから。

携帯を取り上げられ、外部との連絡を遮断された私ができることと言ったら、身を守るために雷蔵に尽くすだけだ。
雷蔵もそれを望んでいる。
だから私は、心の中では三郎を想いながら、雷蔵に抱かれている。

三郎ならこんなことは絶対にしなかった。
わかってるけど、そうでも思わないと、自分を保つことなんてできなくて。
私は雷蔵の下で泣くのを堪えるだけだ。

「梅雨は、男の子と女の子どっちが欲しい?」

と、少しだけ顔を浮かせた雷蔵が聞く。

「どっちって…」
「子供の性別だよ。できれば希望を叶えてあげたいなぁって」
「…そんなことが、できるの」
「まさか。聞いてやってるだけさ」

雷蔵はくすくすと笑いながら、私の髪を梳いて好きなように遊んだ。
私は雷蔵の言葉にそう、とだけ返しながら、こんな状況で子供が欲しいなんて、普通は思わないよと心の中で答えた。

一時期付き合っていたとはいえ、雷蔵と私は幼馴染だ。
私は他に好きな人がいるし、今その好きな人とはどんな状況にあるのかわからないけれど、子供が欲しいと思うのなら、父親はその人を望むだろう。
生憎私は、まだ子供を欲しいなんて思える年齢でもなく、養えるだけの経済力もないけど、雷蔵の子供を欲しいとは、微塵にも思わない。
私と雷蔵は幼馴染なのだ。

それより、三郎に会いたい…
あんな別れ方をした私たちだけど、それでも私は三郎に会いたい。
ごめんって謝って、許してって頭を下げて、別れないでってお願いし……たかった。
でも、それっていいことなのかな?

私は既に雷蔵の手によって、一線を越えさせられてしまった。
行為の度に中に出され、ある意味浮気と思われても仕方ない状況。
雷蔵も私を離そうとはしないから、事態は最悪で。

許してなんか、もらえない…
元通りには絶対ならない。
そう思ったら、助けを願うこと自体、無駄なのだと知った。

だったら、このまま何も知らずにいてくれた方がいい…
私は、汚されたことを三郎に知られたくなかった。


「梅雨、何考えてるの?」

私がぼんやりとしていると、雷蔵はいつもそうやって聞いてくる。
別に、と答えると、嘘つき、なんて言われるから困る。
だって、本当に考えることなんてないのだから。

「雷蔵は、いつまで私をここに留まらせておくの?」
「やだなぁ、いつまでって、ここは梅雨の家じゃない」
「じゃぁ、聞き方を変えるね。いつまで、私は雷蔵に縛られるの?」
「それこそ愚問だよ」

離す気なんてないって言ったでしょ?
にこにこ、と笑いながら私に近寄る雷蔵が怖い。
無意識に体が避けてしまう。
そうすると雷蔵は、益々面白がって、私を追い詰めた。

「何があっても無駄だよ。三郎は来ないし、梅雨は僕と結ばれる」

前者は納得できないにしろそうだろう、と心のどこかで諦めている。
だけど、だからと言って、私が雷蔵のものになるなんて、こんな無理矢理…
それは、どうしても納得できない。
嫌だ。
私は、拒絶する。

「ねぇ梅雨」

私を抱きしめる雷蔵が耳元でそっと囁く。

「もう一回、シようか」
「っ…!」
「大丈夫、今度は痛くしないよ。…梅雨がちゃんと、僕の言うことを聞けたらね」

だから、愛し合おう?

雷蔵の声は、低く、拒絶を許さなかった。


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