梅雨からの連絡が、あれ以来ない。
正確には一度連絡を寄越したのは雷蔵で、梅雨自身から俺に対して何かアクションを起こしてくることはなかった。

今日も連絡のなかった携帯を閉じ、苛々としながらベッドに放り投げる。
ため息を吐いて横になれば、すぐ近くに見えたのは、ブランドのロゴが入った紙袋。
もうすぐあいつの誕生日だからと、前々から用意していたものだ。

付き合って一回目の誕生日は、二人で簡単に食事をして、梅雨が欲しいものを買ってやって、それで終わりだった。
梅雨が何を欲しがるのかな、なんて、澄ました顔の裏では実はもの凄く欲深なんじゃないか、とかそんな阿呆な考えは、半年以上も付き合いが続いていた時には、微塵も思わなかった。
その証拠に、梅雨が欲しがったのは、先日割ってしまったからという理由で、ガラス製のボウルのセットだった。
全部で三千円もしない。
つくづく、欲のないやつだと思った。
いや、これも無頓着ゆえか。

そんな一回目の誕生日を終えた後、俺は来年こそ、梅雨を喜ばせてやろうとひそかに心に誓っていた。
一回目だって、梅雨は喜んでくれたけど、もう少し何か…恋人らしくというか。
白状すると、俺はこの時既に、梅雨に溺れていた。

梅雨は気付いてなかっただろうが、俺は梅雨ばかりを見て、梅雨のことしか考えていなかった。
俺の中の梅雨の存在が変わる。
付き合い始めの頃は、こんなことは予想もしてなかった。

梅雨が好きで、愛しくて。
表面上では平静を装っているけど、梅雨に近付く男には常に苛ついていた。
梅雨がゴムを渡してきたこともそう。
俺以外の奴に抱かれたことがあるのか、と当たり前なことに今更反応してしまった。
ゆえに、あんな態度。

だけど本当の俺は梅雨に見せたよりもっともっと嫉妬深く、どうしようもない奴で、そんな醜い俺を梅雨に見せる訳にはいかなかったから、俺は逃げ出した。
少し頭を冷やした方がいいのは俺の方だ。
だって、万が一こんな嫉妬深い俺を知ったら、梅雨は嫌がるだろう。
想像と違ったと思い、別れを切り出すかもしれない。
それだけは避けたかったから。

でも、だからって、いつまでもこの状態でいられる訳がない。

梅雨から連絡がないなら、俺から会いに行くべきだろう。
そして一言、悪かったと伝えれば、それで終わりなんだ。
やり直せるはず。
そうしないのは、俺の変なプライドのせいだ。
素直になればいいのに。
雷蔵には散々言われた。

だから俺は、一つの決断を下した。

明日、梅雨に会いに行こう。
少しでも落ち込んだ形跡があれば、黙って抱きしめ、ごめんって言おう。
それから、俺がどんなに梅雨を愛しているのか、伝えたい。
失望されるのも覚悟で、特攻みたいなものだ。

前に進む為には、全力で追い掛けなければならない。
そうでないと、俺たちは、


「っとに…覚悟しとけよ」

こっちの気持ちは決まった。
後はそれを伝えるだけである。

寂しい部屋の中で、俺は軽く自嘲した。
何だよこれ。
全然俺らしくねーな、と。
でもそんな俺が、嫌じゃなかった。

梅雨がまさか、あんな目に遭っているとはつゆ知らず。
この時の俺は、あまりに愚かだった。


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