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男はとある場所に足を運んでいた。
彼の黒目は大きく、虹彩が赤い。黒を基調とした服を着て、灰色の髪に金色の飾りがついた黒の帽子を被った、大柄の男だ。
男の名前はリゾット・ネエロ。パッショーネの暗殺チームのリーダーである。
いつもは暗殺の任務で外に出る彼だが、今日は違う。暗殺チームに新しい人を入れたので、挨拶も兼ねてその人を迎えてあげて欲しいというボスからの突然の命令で、今からその新人に会いに行こうとしている。
今日は空が青くて綺麗だ。基本任務の時以外あまり外に出ないリゾットには、昼間の太陽の光は少々眩しかった。
リゾットはボスが指定した、新人との待ち合わせ場所である公園に到着した。
日曜日だからか、子供たちが多い気がする。
「少し早すぎたな……」
公園の時計台を見上げながらそう呟く。
現在時刻は12時37分。待ち合わせを予定している時間は13時。リゾットは待っている間、新人のプロフィールを確認しておこうと資料に目を通す。
新人は18歳の日本人。パッショーネのギャングは未成年の時に入団する者が多いが、その殆どがイタリア人で構成されているのでアジアの人間は珍しい。
余談だが、パッショーネの現ボスは実は15歳の少年で、日本の血が半分入っている所謂ハーフである。年齢はともかく、ボスがハーフだということをリゾットや他のギャング達が知っているかは定かではないが。
18歳といえば、リゾットがはじめて人を殺した年齢でもある。彼が14歳の頃、いとこの子供が飲酒運転による交通事故で死んでしまった。
小さくて尊い、そしてリゾットにとっては大切な家族ともいえる命をを奪ったというのに、その運転手に与えた罰はたった数年の刑。それに納得できなかったと同時に許すことができなかったリゾットは4年後、刑期を終えて出所した運転手を自らの手で暗殺した。
そしてリゾットは後戻りすることはできない裏社会で生きることを決め、ギャングになった。
これから会う新人も、その覚悟があってギャングになったのだろう。リゾットは資料にあった写真を見てみる。
そこに写っていた少年は、陶磁器の様な白くて綺麗な肌をしているが、勿体ないことに酷い寝癖と眠たそうな目をしており、だらしなさを感じる。
地味で平凡な毎日を送っていそうな、ギャングという言葉が相応しくない少年だ。
どうしてこんな少年がギャングになろうなんて思ったのだろうか。同時に、こんな奴が裏社会で、そしてうちのチームでやっていけるのかとリゾットは険しい表情をしながら思った。
「あの……」
突然、横から声をかけられる。リゾットは声がした横を見遣ると、資料の写真に写っていた少年がいた。ダブルストライプの模様が入ったゆったりとした黒色のパーカーに、グレーのジーンズ姿の少年は、確かに眠たそうな表情をしていたが、よく見るとその瞳はどこか幼さを感じる。
少年の姿を見たリゾットは少しだけ、ほんの少しだけ目を丸くした。
漆黒の髪に黒い猫の耳がついたキャスケット帽子をかぶった状態で彼を見上げる姿は、まるで猫。
人間になりたいと願い、その願いが叶った黒猫の様だ――
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