その5


ぽかぽかと暖かい陽の光を浴びながら学生達の青春を眺める。うとうととしてくる心地良さに、植物の光合成もこんな風に眠くなるのだろうかと名前は赤色に染った目を細めた。それから抱え込んだ膝の上に顔を埋め昼寝の準備は万端、だったのに。

「おい、名前!暇してんだろ?ちょっと付き合えよ」

そう言って光合成途中の名前の上に影を作ったのは、呪具を肩に担いだ禪院真希だった。名前はのろのろと顔をあげ、眩しそうに真希を何秒か見つめてから「俺が弱いの知ってるでしょ、相手にならないよ」そういつも通り抑揚のない平坦な声で返した。が、真希はそれでも構わないと名前へ手を差し伸べる。宙を浮かんでいる真希の手を名前は無表情で眺め、小さく溜息をついてから、そこに自分の手を重ねた。ぐっ、と真希に引っ張りあげられる形で立ち上がった名前は念を押すように「本当に相手にならないと思う」と言った。





「本気か?」
「だから言ったじゃん…」

真希の言葉に名前は少しだけ表情を歪めた。こうなる事は分かり切っていたというのに。遠く先に広がる青空の眩しさと背中にあたる地面の硬さに最早懐かしさすら感じ始めた。

『お前弱すぎ、呪術師今すぐ辞めろ』

そういえば昔、こうして同じように地面と仲良くしていると決まって白頭が冷たく見下ろしてきた。今の態度が嘘のように、昔の彼は自分に対して冷たかったと思う。名前は自分が弱いことも知っているし、別に好きで呪術師を目指しているわけでもなかったので『うん、そうだね』といつも同じ返答をしていた。それがまた白頭の眉間に皺を増やす原因でもあった。

『大丈夫かい?あんな事言ってるけど、悟も名前を心配しているんだよ』

それから、そうだ。決まって次に対象的な黒が名前に手を差し伸べてそう言うのだ。ぽこぽこと泡のように懐かしい映像が浮かんできては、ぱちんと消えていく。もう、手を差し伸べてくれた彼はいない。昔の記憶に蓋をするかのように、名前は瞼を下ろした。

「おーい名前、生きてるかー?」

少し遠くで見ていたらしいパンダと狗巻がやって来て、もふもふとした手が名前の頬をつついた。狗巻も「こんぶ!?いくら!?」と何やら言っているが名前には何一つ理解出来なかった。真希が「いや、死んでねーよ」と言っていることから「死んでる!?」的なことなのかもしれない。

「そろそろ戻らなきゃ」

閉じていた瞼を持ち上げてからむくりと上半身を起こした名前の両脇に、モフモフの腕が差し込まれる。子供が親に立たせられるように、パンダの腕によって立ち上がった名前は「ありがとう」と伝え、服についた土埃を叩いた。

「じゃあ頑張ってね」

名前はパンダのお腹を数度撫でてから真希達に背を向け、校舎の方へ向かっていった。その足元には何時の間にかに現れた出処不明の黒猫が一匹、三本に分かれた尻尾をゆらゆらと揺らしている。チリン、と静かに鳴った鈴の音は、風音に紛れて消えていった。





口調迷子のターン。パンダめちゃくちゃモフモフしてて気持ちよさそう。日光浴後のパンダとか最高ではないだろうか。




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