その3


家入硝子は未来予知ができる。というのは盛りすぎた話だが、この後起こる事は知っている。そう、家入は知っているのだ。
あと10秒ほどで金髪に赤眼の奴が駆け込んでくるに違いない。なぜなら彼の呪力がこちらへと向かって来ているからだ。
ガラガラガラッ、と勢いよく開かれた扉に家入は「やっぱりな」と頷いた。

「家入さん、ちょっと匿って欲しい、です」

相変わらず能面のように無表情の名前だが、いつもよりも早口なところから、焦っているらしいことは伝わってきた。家入は「獺祭な」と言って事務机を指差すと、名前はそそくさとその影に身を隠した。

家入は知っている。この後30秒もしないうちに奴がやってくる、と。

「お疲れ様サマンサー!」

名前の時よりも落ち着いて開いた扉の向こうから現れた白髪目隠し野郎に、家入はため息をついた。

「ここに名前来てない?」
「ここには来てないけど?てか、あんたまた逃げられてんじゃん、ウケんね」
「名前は僕との隠れんぼが好きみたいなんだよねえ」

目隠しのせいで上手く表情を読み取ることは出来ないが、口元はゆるりと弧を描いている。この二人の隠れんぼとやらに家入が巻き込まれるのはこれが初めてでは無い。毎度毎度飽きないもんだな、と家入は珈琲を一口飲んだ。

「ここには居ないみたいだから他探してみるよ、もしここに名前がきたら連絡ちょーだい」

今にもスキップをしだしそうなほど、去り際の五条の機嫌が良かった事に自然とため息がこぼれる。そもそもあの五条悟が名前の呪力を感じ取れない事があるわけない。それを知っていて名前を匿っている家入も家入なのだが。

「ありがとう、家入さん」

奴が嵐のように過ぎ去った後、そう言って事務机の下から這い出てきた名前の顔は相変わらず死んでいた。

「獺祭だっけ」
「純米大吟醸で宜しく」
「じゅんまいだいぎんじょう…」
「まあ、わかんなかったら名前のセンスに任せるよ」

家入は色んな意を込めて名前の肩をポンと叩いた。






「はい!御希望の獺祭磨きね!」

後日、気持ち悪いぐらいご機嫌な五条が家入の元へ酒瓶を届けに来た。そのまま帰るのかと思っていたら、五条はそのへんにあった椅子を引っ張ってきて座った。迷惑な事に無駄に長い足を伸ばして。

「名前ってほーんと馬鹿で可愛いよね」

家入は知っている。ここから五条の名前話、基、惚気話が始まる事を…。





ワタシモオサケクワシクナイ。硝子さんの口調迷子、みんな迷子。





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