その1
辺りを闇が包み込み、空には月と星が浮かびあがっている深夜。東京の山奥にあるこの学校から見える夜空は本当に東京の夜空かと疑ってしまうほどに美しい。そんな月夜に照らされた廊下を一人、虎杖悠仁はくわぁっ、と大きな欠伸を零しながら歩いていた。眠気のせいで重たい瞼をごしごしとこすりながら、またもう一つ欠伸を零した時、そいつは現れた。
廊下の少し先、窓から差し込む月明かりにキラキラと照らされている金色。一瞬、普段はぴっちり七三に分けられている金色の髪を持つ彼を思い出したが、どうにも何かが違う。虎杖は一人首を傾げていた。この寮に金髪の住人など居ただろうか?それともまだ会っていない誰かがいるのだろうか?うーん、うーん、と記憶を辿るが特に思い浮かばない。そんな事をしている間に金色との距離は縮まっていた。
「…誰」
淡々と呟かれた言葉は虎杖が発したものでは無い。目の前で対峙している金色、基、金髪の青年から漏れた言葉だ。血よりも鮮やかな赤て染まった二つの眼に捕らえられ、虎杖の身体がピシリと固まる。自分の名前を言おうとしても何故か口が開こうとしない、じわじわと掌に汗が滲みだす。
−ピピピピピピ
途端にアラーム音がいきなり鳴りだして世界がぐにゃぐにゃと歪んでいく。次に感じたのは浮遊感で、例えばどこからか落ちる夢を見ている時のそれと似ている。
「死んだ!!!!!!!」
虎杖はそう思った、そしてその感情のままに叫んでいた。しかし、虎杖の叫びに呼応する物はベッド脇でなり続ける目覚ましのアラームだけだった。
「え、夢……?あれ?全部夢!?!?」
ペタペタと全身を確かめてから部屋を見渡せば、そこは見慣れた自分の部屋。虎杖はとりあえずけたたましく鳴り続けているアラームを止めることにした。
・
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「なあなあ、この寮ってお化けでたりする?」
「は?」
ふんわりと焼かれた卵焼きを箸で半分に切り分けながら、伏黒は眉間に皺を寄せる。そんな彼を他所に虎杖は「いただきまーす!」と手を合わせてから白米をかきこんでいた。
「俺、昨日見たんだよ!」
「ついに夢と現実の区別がつかなくなったのか」
「ちげーよ!…いや、そう言われるとちょっと自信なくなってくるけど…」
そもそも此処は結界で守られているのだ。呪霊の類が侵入してくる事などまず有り得ない。その上、伏黒はそんなモノが出るという手の話を聞いた事がない。
「なんか、金髪でさあ、普通に人間のかっこしててー、あ!目が赤くて!」
身振り手振りをつけて説明をしてくる虎杖の言葉に、伏黒はふと思い出した。金髪で、目が赤くて、表情筋が仕事をしていない、特級仮想怨霊に呪われている男。
「…名前さんか」
初めて聞く名前に「名前さん?誰それ?」と小首を傾げる虎杖に「名前はオレの兄弟だな!」と答えたのはパンダだった。その横にいた狗巻も「しゃけ」と言いながら頷いている。
「え!?パンダ先輩の兄弟!?でもあの人、人間…え!?」
「名前は昔高専に拾われて、そんでマサミチが面倒見てたんだよ」
「ああ!そういうね!?びっくりしたー」
「んで昨日はオレと棘と名前の3人でゲームした」
「しゃけしゃけ」
「なるほど!」
伏黒は卵焼きを咀嚼しながら、目の前で繰り広げられているやり取りにきっちりと耳だけ傾けていた。あの人、また抜け出して…と内心でため息をついている事など誰も気づくことは無い。
「あ、あと名前は悟のコレだからな」
そう言って器用に小指を立てて見せたパンダに「え…えええええええっ!?!?!?」と虎杖の叫びが食堂に響き渡った。「朝からうるさいのよ!!!」と釘崎のツッコミが入るまで、あともう少し。
ずっと書いてみたかったやつ。知識はあまりないので所々、違うんですけど!みたいなの出てくると思いますが、そこは各々の頭の中で修正かけていただけると嬉しいです。大目に見てやってください…。ところでパンダって夜蛾さんのことマサミチって呼んでそうなんだけど合ってるのだろうか。
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