その14


七海は扉の向こうに広がる光景に目を疑った。
いつも通り次の任務まで新聞でも読みながら時間を潰そうと扉を開けると、既に先客がいた。背もたれからとび出ている白髪に、またかと思いながらも空いているソファへと腰を下ろした。ここまではなんて事ない、厄介な人間とまた一緒になってしまった、程度だった。が、しかし、その先客の膝の上に丸まっている塊が目に飛び込んできた事でまた状況は一変した。

「何ですかそれは」
「え?何って猫だけど?」

先客の男、五条は「ねーっ」と膝の上の塊へと声をかけている。あの五条悟と猫というなんとも不釣り合いな光景を目にしてどうして落ち着いていられるだろうか、否、落ち着いていられるわけが無い。

「どうしたんですか、拾ってきたんですか?それともどこからか持ち出してきたんですか?」
「拾ってきてもねーし、持ち出してきてもねーよ、つーか、持ち出したってなんだよ」

それから五条はチッと小さく舌打ちをしてから塊へと両手を差し込んで持ち上げて見せた。びよーんとその身体が餅のように延びる。

「ほら名前、七海だよ」

七海はついに、この男完全に頭が逝かれたのかと疑った。猫に恋人の名前をつけるなんて…どうかしている。まあ、元からどうかしているが。

「あっれー?もしかして疑ってる?猫に恋人の名前つけるとかヤバい奴とか思ってる?まあわかるよ、俺も最初は驚いたしねー。でもこの猫、名前なんだよ。ほら、それよく見たらそっくりじゃん?サラサラの金色の毛とか、この目とかさあ、溢れ出る可愛さとかさあ」

べらべらと喋る五条を隅に捉えつつ、七海は未だに延びているその猫へと視線をやる。

「本当に名前さんなんですか?」

七海の問いにニャォと猫が反応する。これは、肯定という意味なのだろうか。一度眼鏡を外し目頭を揉んだ。

「抱かせてやってもいいけど。あ、可愛くてちゅーとかすんなよ」

後半の言葉は聞き流し、五条の手から名前と思われる猫を慎重に預かった。ふわふわの、もふもふ。腕の中にじんわりと温かさを感じながら七海はもう一度「名前さん」と猫に向かって問いかけをする。

ニャォ。
「本当に名前さんなんですね…」
「だからそう言ってんじゃん」

頭の後ろで手を組みながら仰け反る五条に少し苛立ちを覚えても、このもふもふを見たらどうだってよくなってくる。これが俗に言うアニマルセラピーなのかもしれない。

「五条さん」
「あー??」
「名前さん、チュールとか食べるんですかね」
「はあ??チュール??何だそれ」
「…いえ、何でもありません」
「おい、もしかして餌付けしようとしてんの?そんなん許すわけねーだろ!」





チュールって美味いの??




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