「ねえねえキャプテン、僕ね、キャプテンのこと好きなんだ」
「俺も吹雪のこと好きだぜ、仲間だもんな!」


 ――あのね。違うよキャプテン。キャプテンの言う好きと、僕の言う好きは重みが違う。僕はもう一度、ねえ、と口を開いた。明日、一緒に遊びに行こうよ。キャプテンは太陽みたいにカラカラ笑っていいぜと言った。僕も嬉しくなって笑った。なんだかデートみたい。
 次の日、お昼に待ち合わせをした僕たちは腹ごなしをしにファミレスへ行った。二人掛けのテーブル。僕はこっそりはにかんだ。目の前にキャプテンが居る。今は僕だけを見てくれている。
 キャプテンにとっての僕は、ただのサッカー仲間でしか無いだろう。どんなに気付かない振りをしようとしても、その現実はじくじくと鈍い痛みを伴って僕に突き刺さる。それでも、今この瞬間をしあわせだと感じずには居られなかった。
 午後は、次から次へとスポーツショップに立ち寄ってスパイクやタオルを見て回った。キャプテンは真っ白でふわふわしたタオルを指差して吹雪みたいだなと言った。ただ、思ったことを口に出しただけなんだと思う。特に深い意味は無いんだと思う。わかっていたつもりでも、何故か恥ずかしいくらい真っ赤になってしまった。
 キャプテンの言葉のひとつひとつに胸がいっぱいになる。みんなの一部じゃなく、僕だけに向けられた言葉。そう思うだけで、こんなにくすぐったい。はふりと熱い息を吐いた僕は、タオルよりもキャプテンの横顔を見つめていた。







***



 帰りの電車、たくさん乗り継いでクタクタだった僕たちは気付いたら肩を寄せ合って眠っていた。目を覚まし、おぼつかない思考を働かせると、同じ場所を何周もぐるぐる回っていたのだということだけが辛うじてわかった。空はきれいな茜色。こんな時間になっちゃったね、と顔を見合わせて笑う。夕日色に染まったキャプテンの笑顔はいつもみたいにあたたかいのに、ちょっぴり寂しくなった。
 駅に降りてバイバイかなあと思っていたら、うずうずしたキャプテンに腕を取られた。首を傾げてついて行った先には、小さな公園。つい先程まで使われていた形跡のある砂場や、長年使い込まれた遊具が静かに並んでいる。ここ、好きなんだよと得意げに笑ってブランコに飛び乗る彼に釣られ、僕も隣に腰掛けて足を伸ばしたり曲げたりする。キコキコと軋む音。どんどん加速して、まるで空に浮いているみたいだ。


「キャプテン、好き」
「ん? それ昨日も聞いたぞ?」
「いいの!」
「っはは、変な奴〜!」


 ブランコが軋む。バラバラに揺れるふたつの影は、一瞬重なってすぐにまた離れた。ほんの少しだけ、僕たちの距離感に似ているかもしれない。こういうの、つかず離れずって言うのかな。高く、もっと高く。お星さまに手が届いたらいいね。君にも、手が届いたら――。こんなに近くに居るはずなのに、どうしてだろう、こんなに遠く感じる。
 わずかに重くなった胸の辺りも、少し記憶を辿るだけでジンと熱くなる。そうだ、僕は今日、世界で一番のしあわせ者なのかもしれない。自然と小さな笑顔がこぼれ、キャプテンと顔を見合わせた。
 独り善がりな恋人ごっこもこれでおしまい。ありがとうキャプテン。錆び付いたブランコは耳障りな音を立てている。でも、不思議と気にはならなかった。















(恋人ごっこもあしたまで)

これは、ぼくの、ひとりあそびです



―――
キャプテンは旦那様」さまに提出させて頂きました。素敵企画ありがとうございました!



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -