人で溢れたこの場所で、ふとため息をついてみても誰にも聞こえず掻き消されていく。僕は何をしているんだろう。捜したって、見つかるわけないのに。もういいや、帰ろう。
 むなしさに心が乱され、周りが見えなくなって、たくさんの人とぶつかってしまった。その度に謝っているつもりだったけど、聞こえていないのか眉をひそめてすれ違っていく人の群れ。
 こんなにたくさん人が居ても僕はひとりぼっちなんだ。誰にも、僕が見えていないんだ。冷たかった体がさらに冷たくなった気がして、僕は言いようのない孤独に襲われた。
 家に着いても鍵を上手く挿せず、なかなか家に入ることが出来なかった。そのときにも体温はゆっくりと冷えていく。白い息が、視界を歪めた。やっと鍵が回って入った家には誰もいない。どこに居ても、なにをしていても、人に囲まれているときでさえも僕はひとりぼっちだった。ぽっかりと心に空いた穴を埋める術は無いのだろうか。
 何かが足りない。薄暗い部屋に電気は付けずに布団に潜り込み、寒さに震える体をあたためようと自分で自分を抱きしめる。家の中なのに、息は白くて体は死人のように冷え切っていた。


(……愛されていた、い……)


 つつ、と静かに流れるものだけが唯一僕のほっぺたを熱くした。愛されていたい、だれかじゃなくあなたに。でも僕はひとりぼっちだ。“あなた”なんてもういない。僕だけがこんなに大きく成長していて、なのに心はあのときのままで、ずっとずっとずっとひとりで耐えてきた。
 どうしても耐え切れなくなったときは、人がたくさん居る場所でかりそめの“みんな”のひとつになっていた。たくさん居れば居るほどアツヤが見つかるかもしれないと心のすみっこで思い続ける僕が、気付いたらいつもきみの姿を探していた。
 白いマフラー、ツンツンした髪、優しい吊り目、人懐っこいあの笑顔――ぎゅっと胸が締め付けられて苦しい。へたくそな呼吸音。嫌でも僕がここに居ることを証明している。きみは、いない。
 頬を静かに滑り落ちるそれは、柔らかい布に吸収されて消える。泣くことすら、なかったことにされてしまう。なのに、きみがいないことはなかったことにはならずに僕を苦しめる。
 ねえアツヤ、きみには僕の姿が見えているのかな。僕を見つけて、だれかじゃなく僕を。ずっとずっと、ひとりぼっちでお留守番しているんだ。えらいでしょう?
 お願い――僕を褒めて、抱きしめて、キスをして、愛して。

















(だれかじゃなくあなたに)



―――
きみのすきなうた」さまに提出させて頂きました。奥華子さんの愛されていたいという曲をイメージして、アツヤに恋い焦がれる士郎を書きました。聴いても書いても切なかったのですがとても大好きな曲です。素敵企画ありがとうございました!



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -