岩淵は今、もの凄く緊張していた。
近藤が助手席に座っている。
ハンドルを握る手に力が入るが、今、車に乗っているのは自分だけじゃない。いつも以上に安全運転を意識する。
それでも、岩淵は少し浮かれていた。というのも、近藤の電話番号を知ることが出来たからだ。
近藤は気を利かせて電話番号を教えてくれただけなのはわかってはいるが、浮かれずにはいられなかった。

(それでも、あれは情けないよな、)

車内は静かだ。岩淵は声をかけようと思ったが、近藤が何かを考えているようだったので、やめた。

さっき、近藤に横を歩いてもらいたいと言った後から、近藤はずっと何かを考えている。
もしかしたら嫌だったのかもしれない、と思ったが、会うのを承諾してくれたのだからそれはない、と思う。というか思いたい。
そうじゃなかったら立ち直れない。
どうしてか、多くの人が自分の少し後ろを歩く。
岩淵はいつもなら気にせず、そのまま歩いて行くのだが、今回は違った。気になったというよりも、どうしても隣を歩いてもらいたかったとも言えるのだが。

「あの、近藤さん、」
「ん?」
「星野なんか言ってました?」
「星野?あー、あいつまともに会話できませんよ、って言ってたな」
「…会話、します」
「なんだそれ。今してんじゃん」

近藤が笑った。
岩淵はそれを見たかったが、運転中でそれは出来ない。
信号で止まった時チラリと横を見れば、未だ、おかしそうに笑う近藤がいて、岩淵は幸せな気持ちになった。

「……笑いすぎです」
「いや、悪い、ははっ!岩淵、見かけによらず面白いな」
「…そんなことないです」
「あー、もっと怖い奴かと思ってた」

近藤はひとしきり笑って、何かを思い出したかのように、あ、と一言呟いた。

「どうかしましたか?」
「いや。なんでもない」
「……何か問題が、」
「違う違う。あー、うん。店着いたら言うよ」

自分に関係があるんだろうなと気にはなったが、岩淵は少し考え、店に着いてから聞くことにした。





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