数ヶ月前、星野から岩淵にアドレスを教えるというメールが来た。
近藤自身断る理由もなく、それに岩淵に少し聞きたいことがあったから了承の返事をした。
その日の夜、丁度晩御飯を食べ終え、片付けをしている時に岩淵からメールが来た。
絵文字も何もない、とてもシンプルな文面で、まるで事務連絡のようだったが、近藤は気にしなかった。
その時はニ、三通やり取りをして、近藤からメールを切った。内容は大したことじゃなかった気がする。
その後何度かメールのやり取りをして、数日前に岩淵から一度直接会いたいとメールが来た。
正直、近藤は迷った。断る理由はなかったが、一体何処で会うのか。お互い関東圏内とはいえ、少し距離がある。
その旨を伝えれば、岩淵が川崎まで出向くと言ってきたので、流石にそれはと思い、東京で会うことにした。

それで、今に至る。
近藤は今、少しだけ後悔していた。
一体会って、何を話すというのだろう。
別にそこまで仲が良いわけではない。会話をしたのだって、チャンスと代表戦を観に行った後、星野に声を掛けに行った時に少しだけだった。

(聞きたいことがあるっつても、今更気にするようなことでもねーのに、何やってんだろ…)

らしくないなあと自身を振り返り、溜め息を吐く。
頭で僅かに浮かんだ考えは一蹴した。流石にそれはない。絶対。

携帯が振動しメールの到着を知らせる。開けば岩淵からで、今どこにいますか?と書かれていた。
近藤は今いる場所で目印になりそうなものを打って、悩んで電話番号も付けた。
東京駅は広い。メールでちまちまやるよりも電話の方が早いと思ったからだ。
少しして、携帯が着信を知らせた。
知らない番号だったが、岩淵だということは明らかだったので電話に出たら、焦ったような岩淵の声が聞こえた。

──近藤さん、ですか?!
「そうだけど」
俺の携帯に掛けてんだからあたりまえだろ。という言葉は飲み込んだ。
──すんません、なんかわけわかんないとこに出ちゃって…
「近くに何がある?」
──……新幹線の改札があります。
「わかった。今からそっち行く」
──ほんとにすみません…。
「良いよ別に。あ、絶対動くなよ」

電話を切って、歩き出す。幸運なことにここから近く、直ぐに着いた。
きょろきょろと周りを見渡せば、直ぐに見つかった。
近付いて声をかければ、ばっと顔をあげて、安心したような、それでいて嬉しそうな顔をした岩淵と目が合って、近藤は大型犬を連想した。

「近藤さ、ん!」
「こっちまで来てもらって悪いな」
「いや、あの、全然、」
「電車?車?」
「車です、」
「じゃあお酒はだめだな。どうする?」

岩淵はいくつか自分が行ったことがあるお店を思い浮かべる。出来れば個室が良いと思った。

「俺が行ってるとこで良いですか?」
「良いよ。任せる」

車、こっちです。と言って歩き出した岩淵の少し後ろを近藤が追いかける。理由はわからないが、なんとなく、横を歩くのは気が引けた。
岩淵が一瞬止まって、また歩き出した、と思ったらまた止まった。

「…どうした?」
「…いや、あの」

近藤が立ち止まった岩淵の横に並ぶ。
岩淵がチラリと近藤を見て、もう一度ゆっくり、歩き出した。

「おーい、」
「近藤さん着いてきてないのかと…」
「なんだそれ。ちゃんといるって」
「…………」
「岩淵?」
「…あの、出来れば横を歩いてもらいたいです」
「え、あー、うん。悪い」

岩淵はただ、いるかどうかわからないからということ以外の理由はないだろうけど、不覚にも、近藤はどきりとした。





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