岩淵は悩んでいた。
どうしたらあの人、近藤さんと接触できるのか。連絡先を交換できるのか。もっと欲を言えば仲良くなれるのか。

一目惚れだった。
きっと勘違いだとか、男相手になにをとか、そういうことが全て飛んでいってしまうくらい、岩淵の中では衝撃的な出会いだった。

岩淵は今日、何度目かの溜め息を心の中で吐いた。
いつもなら特に味わうこともせず、さっさと胃の中にかっ込んで、午後の練習に備えて昼寝をしているのだが、二つのことを同時にできないため、考えている時はどうしても手が止まってしまう。

「…おい」
「…………」
「岩淵」
「……なんだ」
「飯に何か入ってんのかよ。手、止まってんぞ」

星野に声を掛けられて、止まっていた手を再び動かす。溜め息が聞こえた気がするが、岩淵は無視した。
ガタンと目の前の席に星野が座る。
なんで目の前に座るんだと思い、他の席をぐるりと見渡せば、騒いでいる若い選手達とベテランの団体が視界に入り納得する。
会話はない。お互い無言で箸を進める。

ふと、岩淵はあることを思い出した。
近藤さんと星野が同じチームであることを。
しかし一体何を聞こう。

「…お前はさっきから飯と会話でもしてんのか」
「…違う」
「そんなちんたら食ってたら時間なくなるぞ」
「聞きたいことがある」
「あ?」
「近藤さんはどんな人だ」
「……は?」

急にかしこまってなにかと思えば、チームのキャプテンのことで、星野は思わず聞き返した。
なんとなく、岩淵の頬が赤いような気もしたが、気のせいだと、自分に言い聞かせる。

「いきなりなんだよ」
「良いだろ別に。どうせそのうちやるんだから」
「プレーのことを敵に直接聞くってどうなんだよ」
「違う。プレーのことじゃない」
「は?」

星野は意味がわからなくなった。
そのうち試合するからプレーの特徴を聞きたいということでないのなら、一体近藤の何を聞きたいと言うのだろうか。
目の前には頬を染める岩淵。
ふと、嫌な予感が星野の脳内に過る。
冗談だと思いたかったが、そうではないことは目の前を見れば明らかだった。

「まさか、」
「……お前だってフォワードの、チャンスってやつと付き合ってるだろ」
「はっ?!」

ガタンっ!岩淵の言葉に思わず立ち上がり、声をあげた星野に、騒いでいた若い選手や談笑していたベテラン陣の視線が集まる。
それに気付いた星野は、大人しく、何事もなかったかの様に座り直し、口に水を含んで岩淵を睨んだ。
そんな星野の様子を見て、岩淵は鼻で笑った。

「なんでテメェがそれを知ってんだよ」
「この間、試合の後来てただろ。近藤さんと」
「この間?」

星野は頭の中で、チャンスと近藤が観に来ていた試合を思い出す。試合の後、二人が声をかけに来た。
その時、いた。確かにこいつはいた。
偶然こいつと歩いている時に(もちろん会話はなし)二人が来た。
岩淵と近藤の接点がわからなかった星野だが、ここで繋がった。

「で?」
「そういう雰囲気だった」
「……うそだろ」
「嘘じゃない」

星野は頭を抱えた。
少なくとも外ではそういうものを出さないようにしていたつもりだったからだ。

「お前がそいつと話してる時、声を掛けてくれた」
「あ?ああ、コンさんから」
「…………」
「……は?それだけ」
「悪いか…」

頬を染めるな気持ち悪い。不可抗力だ。
ますます星野は頭を抱えた。
自分のこともそうだが、目の前の、普段無愛想でほとんど表情を変えないような奴が、自分のチームメイトのそれもキャプテンに声を掛けられただけで、気になる、など。

「で、どんな人だ」
「…まあ、自分にも他人にも厳しい人だし、言いたいことははっきり言うし。でも、良い人だな」
「最後のはわかる」
「……そうかよ」

これ以上は相手をしたくないと思った星野は、すっから冷めてしまった味噌汁を飲み干して立ち上がるが、同じタイミングで岩淵も立ち上がったため、それは叶わなくなった。





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