チャイム一つ押すのに緊張するのはいつものことで、殆どの場合押そうと思ったタイミングで近藤さんが開けてくれるのだけど、今日は珍しくそれがなかった。
不思議に思ったがとりあえずチャイムを押した。反応はなく、むしろ本当に家にいるのかだんだん不安になってきた。

(確か今日はオフだったはず…)

メールを確認しようと携帯を開いたところで、やっぱ岩淵の方が早かったかー、という聞き慣れた声が聞こえて振り返れば、買い物袋を持った近藤さんがいた。

「待った?」
「いや、今来たとこです」

悪かったな、ギリ間に合うと思ったから買い物行ってた。
空いてる方の手で家の鍵を開け、入れよと促されたが、なんだか申し訳ない気がして扉を手で押さえて近藤さんに先に入って貰い後から入らせてもらう。

「ただいまー」
「…おじゃまします」
「お前夕飯食った?」
「練習終わってすぐ来たんで食ってないです」

というか早く近藤さんに会いたくて忘れてました。お前ね……。
時計を見れば既に七時を回っていて、言われてみればお腹が空いたような気がしないでもない。

「俺ので良かったら作るけど?俺もまだ食べてねーし」
「え!?」
「ま、その為の買い物だったんだけど」
「食べます!お願いします!」
「何だよその勢い。あ、食えないもんとかある?」
「近藤さんが作ってくれたものなら何でも食べます」

あほか。アレルギーの話だっつの。…特にないです。
近藤さんには見えないように小さくガッツポーズをする。半ば無理矢理会いに来たようなものだけど、昨日の夜、頑張って良かったと本気で思った。
何もしないわけにはいかないので、何か手伝おうとキッチンに入れば、邪魔だから入ってくんな、と追い出された。

「キッチン広くねーんだよ。大人しくソファにでも座っとけって」
「でも、」
「一応聞くけどお前料理できんの?」
「……切るくらいなら」
「座ってろ」

渋々キッチンを出て何か他にやることはないかと探す。テーブルでも片付けようかと思ったが基本的に近藤さんの部屋は綺麗でその必要がないことは明らかで、仕方なく指差されたソファに座った。
ソファはキッチンに背を向けているので近藤さんの姿が見えない。振り向いてキッチンで料理をする近藤さんを見た。テキパキと何かを作っている。なんだろうと気になったが、出てきた時の楽しみにとっておこうと思った。

「…視線が痛い」
「気にしないで下さい」
「なに、そんな腹減ってんの?」
「催促してるわけじゃ…!」
「あー、わかってるから」

だから、こっちに来ようとすんな。
料理をしている姿なんて初めてだからいつまでも眺めていたかったが、催促している、と思われたら申し訳ないので諦めた。
それでも、近藤さんが料理している姿を少しでも見れて、ああ、良いな。と色々考えた。考える分には問題ない。それを口に出さなければ良いのだから。
部屋中に広がる匂いに夢を見た。




title by.魔女





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