(ここ、どこや?)

目が覚めたばかりで薄暈けた視界の中、飛び込んできた目の前の景色は自分の部屋ではなかった。
未だほとんど開いてない瞼を擦って、再度、部屋を見渡せば、悲しきかな、すぐにここが畑の部屋だとわかる。

乱雑に置かれた雑誌、畳まれてない服、片方見当たらない靴下、エトセトラ、エトセトラ。
何度片付けさせても、三日後には最初の汚い状態に戻ってる。意味わからん。せめて一週間は保たせろ阿呆。

(にしても、)

今、問題にすべきは畑の部屋が汚いことじゃない。何で畑の部屋にいるか、や。
昨日は普通に練習して、その後暇やからって畑の部屋でゲームして、そんで。
テーブルの上に置かれた缶の山を見て、飲んだことを思い出す。
特に二日酔いも、身体のだるさもないということは、あの缶の殆どを畑が飲んだことになる。
起きたら絶対二日酔いでダウンするんやろうなあ。ホンマにアホや。そんでもって良いざまや。

「ん、カタ?今何時や」
「あ?あー、7時やな」
「ほうか」
「……は?」
「ん?」
「ってゆうか、なんで畑と寝とるん!きっしょく悪いわ!」

ベッドに寝てるにしては狭いと思っていたら、畑の声が後ろから聞こえて飛び起きた。
何が悲しくて男と、しかもよりにもよって畑と一緒に寝てたなんて、ありえん。おかしい。なんでこうなった。

「おまっ、耳元で叫ぶなや!」
「叫びたくもなるやろ!」
「覚えてないんか」
「なにが」
「いや、だから昨日」
「飲んだんやろ。テーブルの上見たらわかる」

テーブルを指さして言えば、畑の顔は明らかに引きつって、直ぐに頬を緩めた、かと思えば、俺と目が合った瞬間口元を隠した。

「なん?百面相とか気持ち悪いわ」
「はあ?!」
「引きつったり、にやけたり、忙しいやっちゃな」
「だって、お前、ほんま何も覚えてないんか?」
「さっきからなんやねん!言いたいことあるんならはっきり言えや」

明らかに落胆したような表情を浮かべた畑が、ベッドから起きてきて、スーパーの袋をひっつかみ、テーブルの上の缶を潰して放り込んだ。
返って来そうにない答えを諦めて、同じように缶を潰して、袋に放り込んだ。
畑が吐く小さな溜息にイライラしたのは言うまでもない。

「お前、溜息とかなんやねん」
「昨日のこと覚えてないんやろ。そら落胆もするわボケ」
「だから昨日のことってなんやねん!」
「…これ飲んだんどっちやと思う?」
「俺二日酔いやないしお前やろ」

やっぱなあ。はあ?
シムさんと話してるんやないかと錯覚するくらいに会話の噛み合わない畑に嫌気がさす。
今日の畑はめんどくさい。

「これ飲んだんほとんどお前やからな」
「はあ?!ありえへんやろ!」
「ほんまやからな!っちゅーか、カタいつも二日酔いとかないやんか」
「まあ、そうや、けど」

そんなに飲んだ記憶はない。
ただ少し、ほんの少しだけいつもより早いペースで飲んでいた、ような気はしなくもない。

「記憶ないやろ」
「あるわ!」
「じゃあ何で一緒に寝てたか覚えてるんか?」
「…………」

予想はしてたけど、畑はそう呟いて缶の入った袋を俺の手から受け取って口を結んでその辺に置いてからベッドに腰掛けた。

「昨日お前飲むだけ飲んで、さんざん騒いだ後、なんや急に寝る言うて俺のベッドに横になったんやけど、その後な、」
「あああ!ちょっ、言うな!もうわかった!」
「俺の腕を引っ張って、むがっ!」

言葉を紡ぐにつれてにやけはじめた畑の顔に構わずクッションを投げつけた。
昨晩自分が何をしたのか、全部思い出した。できることならこいつの記憶にある昨晩の俺を抹消したいくらいには。

「いっきなりなにすんねんドアホ!」
「言うな言うたやろ!」
「全部言え言うたんはお前やろ!」
「思い出したからもうええねん!」

完全に思い出したんか。今なら恥ずかしさで飛べるわ。
ソファに腰を降ろして、息を吐く。
畑がベッドから立ち上がって、俺の横に座ろうとするのを、なんやねん、といつも通り悪態を吐いて睨みつける。

「俺の部屋やから何処行ったってええやろ!」
「せやかてわざわざ狭いとこ来る必要ないやろ!」
「……昨日はあんな素直やったんに」
「あああ!知らん!何も覚えてへん!」
「じゃあ、何言うたんか教えたる」
「それだけはアカン!」
「ハタと一緒に」
「ぎゃあああああっ!」

もう一度、クッションをひっつかんで畑の顔面に投げつけた。



あとがき



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