「堺さん。世良はどうするんですか?」
「連れてくにしろ、施設においてくにしろ危険なことに変わりないからねえ」
世良の相手を丹波に任せて、堀田と石神とこの後世良をどうするか話し合う。
この状態だし、どっかしら施設はあるんだろうけど、軍に狙われてしまえば助かる確率はほぼゼロ、だ。
軍が施設を狙わないっていうんなら話は別だけど。
「じゃあ連れてくのかよ?」
「うーん、オレ等は軍を抜けた身だし、見つかれば確実に殺されるわけでしょ?それに子供連れてたら行動範囲も限られてくるし…」
どっちにしたって危険と背中合わせだ。
オレとしては連れて行きたいというのが本音だ。今の施設の状態なんてたかが知れてる。
それに、あそこは、辛い。
悲しみしかない。毎晩毎晩、寂しい。辛い。誰も助けてなんてくれない。拭ってなんてくれない。
まわりに人はいるのに、知り合いもいないところにぽつんと一人でいる感覚は、あの時と何も変わらない。
苦しい。痛い。切ない。いや、だ。
「堺さん?」
「……ん、ああ悪ィ」
「やっぱり、施設に預けようよ。この争いを止める為にやらなきゃいけないことが多すぎる。子供を連れてたら難しいと思うし」
「…そうだな」
石神の言うことは一理ある。
この争いを止める為に、反乱軍とは別に動いてる連中がいるらしい。一先ずその連中と合流することになった。
そいつらが何処をどう動いてるかわからない上に、拠点が何処にあるのかも知らないから、探し歩かなければならない。
それこそ1日何十キロと歩くことになるのだ。それも宛もなく。子供には絶対に辛い。
「とりあえず、丹さんにも聞いてみて正式に決めようか」
「丹さんと代わってきます」
「うん。堀田君よろしく」
堀田が丹波に軽く事情を説明して、丹波が世良から離れてこちらに来る。
石神が丹波に今までの会話の経緯を話して、丹波が小さく唸った。
下を向いていた丹波が顔をあげて、目が合う。
「あのさ、堺はそれで良いわけ?」
「は?」
「オレは堺がそれでいーんなら良いよ。でも、正直迷ってるだろ」
見透かされた。
そういえば、昔からこいつには隠し事だとか、そういう類のことは見抜かれていた気がする。
「堺はさ、そういう辛さとか、全部ひっくるめてわかってるだろ?」
精神的な辛さと肉体的な辛さ、どちらが自分に重くのしかかるのか、なんて答えは明白で、結局、今になってもまだ、引きずったままで、忘れられない。
身体ばかり大きくなって、心のどこかは成長しないまま、今でも昔求めていたものを、無意識に探していることがある。
(オレは世良と昔の自分を重ねてる、)
「堺さんの好きなようにしなよ」
「石神、」
「偉そうなこと言ったけど、どっちが良いか、なんてこんな状況じゃわからないし」
「堀田もそれで納得すると思うよ」
それに、今のあの子には堺さんが一番信用できる相手だろうし。石神は小さな声でそう付け加えて、世良の方をみた。
世良もその視線に気付いたのか、こちらを見て、嬉しそうに、笑った。
(眩しい、)
こんな風に笑顔を見せていたのが、もう思い出せないくらい昔のことになってしまった自分と、同じ目に合わせないように、この笑顔を守りたいと思った。
「世良は連れてく。いざとなったら守れば良い」
満足したように頷く三人が、全く状況が把握出来ていない一人の頭を撫でた。