別に男相手に警戒しろって方がおかしいのはわかってるけど、この人には、警戒心というものがなさすぎる気がする。


誰にでもほいほいついてって、可愛がられて、いじられて。どう考えてもバカにされてるのに何故か楽しそうだし。
でも最近は、ある先輩にずっと引っ付いてて、これはこれで面白くなかったり、する。

訂正、全然面白くない上にムカつく。
何があったか知らないけど、何で堺さんなんだよ。

「アンタはこっちの気なんて知らないだろうけどさ」

背負っていた小さい先輩、世良を起こさないようにゆっくりとベッドの上に下ろして、ジャケットを脱がして寝かせる。

飲みに行って、散々先輩に飲まされて、潰されて。
ずっと堺さんに引っ付いていたのを、無理矢理引き剥がして連れて帰って来たことを知らない。
背負っていた時、どきどき腕が強く首に巻き付いてくる度に、俺がどんな気持ちになっていたのかなんて知らない。
耳元で堺さんのことを聞かされて、どんな想いで部屋に連れて帰って来たのかを知らない。


(別に、知らないままで良いけど、)

無理矢理引き剥がして連れて帰って来たのも、強く巻きつけられた腕に期待したのも、一人でショックを受けたのも、全部、俺の勝手。

結局覚えてないだろうと思って、今、世良さんの顔の両脇に手をついて、鼻が触れるか触れないかってところまで顔を近付けてるのだって、俺の勝手な行動。

「……くそっ、少しくらい気付けよ」

少しも乱れることなく上下する腹部に、安心するとともに、苛立ちが募る。
目を覚まして、驚愕や文句の一つでも吐いてくれれば、笑って誤魔化して、冗談にして、踏ん切りがついたかもしれないのに。


(なのに、なんだってこんな、)

こんな、安心しきった顔で眠られたら、逆に手を出せない。
これがもし、俺じゃなくて堺さんだったら、きっと、緊張で酔いなんか吹っ飛んでんだろ。
こんな距離で顔近付けられたら、目、覚ますんだろ。期待すんだろ。


「…ばからし」

ギシリ、音を立ててゆっくり覆い被せていた状態を起こす。いつの間にか掴まれていた服の裾に払拭しかけた邪な想いが蘇るのを、再度、振り払った。
今、この段階で手を出したって、どうせ手に入りはしないから。
どうしたって、一番にはなれないから。

それでも、不毛な恋を終わらせることができないのは、それだけ、想いが強いからで、帰りに言われた一言に、少なからず期待している自分がいるからで。


「俺の好きは世良さんが堺さんに対して言うのとおんなじなんスけど。アンタはその辺わかってるんスか?」


たとえ起きていたとしても、望んでいる答えが返ってくるはずもないのに問いかけて、裾を掴んでいたその手をやんわりと外した。




あとがき
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