「コンさん」
「あ、星野。悪いけどそれとって」

星野は無言で言われた物を手渡し、もう一度名前を呼んだ。
ちょっと待て、と忙しそうに動いている手と逆の手をあげ、星野が話そうとするのを制し、また直ぐにぱらぱらと手元の書類を捲った。

「お前が言いたいことはわかるよ、」
「とりあえずこれ終わるまで待ってろ」

淡々と、書類に目を向けながら言われた言葉に星野は素直に従って、近くの椅子に座った。
何でも明日までに提出しなきゃいけない書類らしい。普段なら前日までには提出してるのに珍しいと思えば、たまたま近藤さんの代理でその会議に出席した八谷が言い忘れたからとのことで納得した。

少ししてから、あー、と気の抜けた声が聞こえ、星野は顔を上げた。

「待たせて悪いな」
「いえ、別に」
「で、今回は何が原因なんだよ」
「むしろそれ俺が知りたいんですけど」
「うん?」

言っている意味がわからない、とでもいうような顔をした近藤に、星野は頬を掻いた。
そう、今回ばかりは本当に検討が付かないのだ。

「姜が機嫌悪くなったのどの辺?」
「飯食ったあとには既に悪かったです」
「何かした?」
「いや、なんも」

なに、原因もなく喧嘩してんの?喧嘩っていうか一方的になんですけど。
これは直接聞いた方が早そうだと思った近藤は、ブレザーのポケットから携帯を取り出し電話をかける。
3コール目で電話が繋がり、近藤が話出そうとしたところで電話口から大声が聞こえ、星野は顔をしかめた。

「姜連れてこっちくるって」
「は?」

驚いて空いた口が塞がらなかった。
近藤は通話の切れた携帯をブレザーのポケットに戻し、息を一つ吐いた。

「星野、くち、開いてる」
「……なんで八谷の野郎と一緒にいるってわかったんスか?」
「なんとなく」
「なんとなくって……」

近藤は星野の驚きを気にせず手元にあった資料を片付け、教室の扉を開けた。
普通に歩いていれば障害物にもならないものを端の方に起き、机の位置を少しずらし、また最初の位置に座る近藤を星野は不思議に思ったが、口には出さなかった。

「ま、俺の予想だと、星野が何か忘れてるかなんかだと思うんだよね」
「え?」
「例えばさ、記念日とか、遊びに行く予定とか」忘れてる、と言われて頭の中で自分の予定をひっぱりだす。
遊ぶ予定ではなかった。そもそも、チャンスと遊びに行くのに、今まで予定なんて立てたことがない。
全く思い当たる節がない、とでも言うような顔をしている星野に、近藤は苦笑いをした。

「とりあえずさ、一回ちゃんと話してみろよ」
「はあ、」
「お前等、言い合ってるけど結構言葉足りてないこと多いから」
「それ、あいつだけっスよ」
「そこは考慮してやれよ。あ、そろそろ来るかな」

廊下からもの凄い足音が聞こえてくる。
次の瞬間、近!という叫び声にも似た呼び声とともにチャンスを連れた八谷が教室に飛び込んで来た。




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