(今日はチョーシ良かった!)
コシさんにほめられたし。ドリさんにも良かったって言ってもらえたし。
あと、奇跡的に堺さんにも。
いつも怒られてばっかだけど、今日はほめられた、し。
「あー、明日は雨かなー」
そしたら練習できないから嫌だな。
今日の状態を維持したまんま練習できるかはわからないけど、練習はしたい。
そんで今日みたいにできたらなおさら良い。
「なんで雨なんスか」
「うわっ!」
「…なんだよ」
「いきなり出てくんなよ!」
「はあ?ずっと後ろにいたんだけど」
あー、びっくりした。腑に落ちねー。なんで?
赤崎はあからさまにため息をついて、もう一度、なんで雨なの、と聞いてきた。
あの呟きが聞こえてたってことは、結構前から近くにいたってことになる。
浮かれてて全然気付かなかった。
驚いて悪かった気がしなくもないけど、本当にびっくりしたんだから、この際、仕方がないと思うことにする。
「珍しく堺さんがほめてくれた」
「へえ。堺さんのせいで明日雨らしいですよって言っちゃお」
「ギャー!それはダメ!絶対ダメだかんな!」
「だって思ったのは事実でしょ」
「ううう…」
図星を点かれて言い返せない。
赤崎はしてやったりって顔してるし…ムカつく。
「でも!せっかくほめてくれたのに結局いつもみたいに怒られるとか、天国から地獄に落とすようなことすんなよ!?」
「ジョーダンですよジョーダン」
「おまえならやりかねない…」
「はあ?そんなことより早く帰ろうぜ。本当に雨降りそう」
言われて外を見れば、確かにさっきまで憎らしいくらい顔を出していた太陽は雲に身を潜め、少しだけ空が暗くなっていた。
(っていうか、もうぱらぱら降ってんじゃん…!)
「うわ、オレ傘持ってねーよ」
「いれてあげましょうか?」
「まじ?!良いの?」
「良いから言ってんでしょ」
ほら。と言って傘を広げた赤崎の横のスペースに滑り込む。傘の持ち手が普段自分が持つより幾分か高い。
さり気なくこちら側に傘を向けてくれるのは、後輩としての先輩への配慮ではなく、恋人としてだと言うことを考えるとくすぐったい気持ちになる。
「やっぱ好きだなあ」
「はあっ?!」
「ちょっ、とお!濡れる!濡れる!」
突然引かれた腕を慌てて引き寄せて、最初の位置、よりも少しだけ近付く。
「うわー、ちょっと濡れたじゃんか!」
「いきなり、なんで、そういう」
「は?」
「勘弁してよ」
「赤崎?」
何か変なこと言ったのかと思って見上げれば、耳を赤くした赤崎と目が合う。なんかかわいい。
「わざと?無意識?」
「なにが」
「いきなり好きとか」
「え、オレ口に出てた?!」
「無意識かよタチわりーな」
そっぽを向いた赤崎がががしがしと頭をかいて一つ息を吐く。
「世良さんて、ほんとオレのこと好きだよね」
「そういうお前だってオレのこと好きだろ?」
濡れない程度に少し前に傾けられた傘の裏で、どちらともなくキスをした。
title by.jaune(眩暈)
20100821