ドリさんが保健室の先生、世良が生徒

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




ガラガラという音に書類から視線を外して扉の方に向ければ、眉根を下げて困った顔をした二年の世良がいた。
キョロキョロと室内を見渡して、他の生徒がいないことを確認した後、静かに扉を閉めてから、設置されたイスを引きずってきて俺の目の前に座った。

「どうした?」
「いや、あの…」
「授業は?」
「屋上で寝てて、さっき起きたンスよ…で、ちょっと…」
「今更授業も出れないし、居場所がないから来たのか、」
「それにも理由があるんですって!」

否定する為に出した大きな声に、世良は慌てて口を抑えてすみませんと言った。
元から小さな身体を更に縮こませて肩を落とす世良はもう一度、保健室内を見渡してため息を一つ吐いた。

「誰もいないって」
「何とかに耳ありって言うじゃないッスか」
「壁な。それで、どうした」
「さっき屋上で寝てたって言ったじゃないスか」

起きて時計見て、諦めてもう一眠りしようと思ったら、堺さんの声が聞こえたんスよ。

(ああ、堺さん、な)
以前、世良から打ち明けられた相談を頭の中から手繰り寄せて今の話と合わせて整理する。
確か世良が怪我をして落ちていた時に、何かと言って上手く立て直してくれた先輩が堺だったか。
その堺に憧れを抱いて、いつの間にか気付いたら好きになってた、って言ってたか。

世良はよく俺のところに相談に来る。
曰くドリさんなら誰にも言わないから、らしい。もちろん堺のことだけじゃなくて、その日あったこと、言われたことを話に来ることもある。

(随分と懐かれたもんだ…)
ふと、そう思った。
ころころと変わる世良の表情を見ているのは楽しいから全く苦ではないし、これはこれで面白いから何ら問題はないのだが。


「それで、途中で丹波さんと石神さんと堀田さんが来て、4人で話始めて、気にしないで寝ようと思ったんスけど、なんかオレの話になって」
「それで」
「堺さんに何言われるんだろとか思ったらなんか緊張しちゃって、しかも怖くなってきて出てきたんス、」

最後まで聞けば良いのに。無理ッス!怖いッス!
俺としては、世良の話を聞く限り、堺も満更じゃない気がしている。
それは俺が言うよりも、自分で気付いた方が良いだろうから言わないけど。


「なんか話したらスッキリしました」
「そりゃ良かった」
「なんかドリさん話しやすいんスよね、なんでだろ?」
「誰にも言わないからだろ?」
「それもあるんスけど、うーん、なんかこう、安心感があるっていうか…なんでかドリさんと一緒にいると落ち着くんスよねー、なんでだろ…」

ドリさんマイナスイオン出してます?……そんなもん出るわけないだろ。
どこか本気で聞いてきてるような気がして少し眩暈がしたが、こういうことを普通に言うのが世良だと、今までを思い返す。

(まあ、でも、)

イマドキの高校生と同じように染められた明るい髪の毛がぐちゃぐちゃになるくらい頭を撫でてやれば、何するんスか!という抗議の声が上がる。
タイミングよく鳴ったチャイムに、声をかければ、「話聞いてくれてありがとうございました!」と言って友達が待つであろう教室へ戻って行った。


(かわいいこと言ってくれるよ)

ほんの少し、堺に渡すのが惜しい気がした。




20101109



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -