あ、チャリカギどっかいった。
きっかけは、赤崎のこの一言だった。

テスト週間だから当然部活は休みで、おとなしく帰って寝よう。勉強は、まあ、できたら夜やるかな。なんて終令の後、駐輪場へ向かいながら考えていた。
駐輪場に着いて、オレがチャリにカギを差し込んだ時に、赤崎がそう呟いた。オレだったらもっと大慌てなのに、な。

赤崎は家が近いから、大体行きも帰りも一緒だ。
別に約束してるとかじゃなくて自然と。
だから、偶然荷台の付いていたオレの自転車で赤崎と二ケツすることになったのも至極自然な流れだった。
(のに、キンチョーすんのはなんでだろう…?)

最初はオレが漕ごうと思って前に座ったのに、赤崎の奴は世良さんじゃ無理だと思うよ。としれっと言いやがった。
小馬鹿にされたような気がして悔しかったから、試しに座ってもらって進もうと思った、ら、赤崎の言う通り、上手く前に進まなかった。
結果、当然前後交代で、赤崎が濃いでオレが荷台に座ることになった。

そこまではまだ良い。問題はその直後のこいつの行動にある。
あろうことかこいつは、多分ケツいたくなるから、と言って荷台に自分のタオルをひいたのだ。
男のオレに何してんだと思ったし、正直気恥ずかしい気持ちになった。


(つまり、こいつがそんなことしたからキンチョーするんだ、)

普段はしないような気遣いを、ここで出してくるとは思わなかった。


「世良さんさー」
「んあ?」
「この間、告白されたんだって?」
「おーってか、なんで知ってんの?!」
「まあ、色々。で、どうすんの」

受けるの、受けないの。
なんでそんなこと聞くんだよ、なんて言わない。オレだって赤崎が告白されたら多分、いや絶対聞いてると思うから。

「正直、迷ってんだよなー」
「ふうん。なんで」
「可愛い子だったし。でも、オレより5センチも背が高い……」
「世良さんチビだもんね」

ほっとけ!という意味もこめて、目の前にある背中に軽く頭突きする。
身長なんか気にしてるから彼女ができないんだろうけど、こればっかりは譲れないというかなんて言うか…。
平靴で5センチだ。ヒールなんて履かれたらたまったもんじゃない。


「そういえば最近赤崎なんもないよな」
「あー、オレ今興味ないんで」
「ええ!あんな女好きだったのに?!」
「女好きじゃねーよ!」

なに、本命できた?そういうわけじゃないけど。なんだ、つまんねーの。
入学当初はひっきりなしだった携帯のメールも、最近は一気に数が減ったように思える。まあ、赤崎が一方的に切ってるんだろうけど…。
それをもったいないと思いながら、心の何処かで安心している自分がいたのを今でも覚えてる。理由はよくわからないけど。


「ま、とりあえず世良さんが断るんなら良いや」
「は?なんでだよ」
「…ノロケられたらうぜーし」
「キーっ!いつか絶対ノロケてやる!」


期待しないで待っててやるよ。何で上からなんだよお前は…。
とろとろ走っていた自転車が止まって、赤崎がチャリから降りる。いつの間にか家の近くまで来ていたらしい、気付かなかった。

「じゃあな。ありがと」
「おー。また明日な」

赤崎がマンションに入って行くのを見届けてから、前のサドルに移る。
荷台にしかれたタオルは明日洗って返せば良いだろう。


ゆっくりと自転車をスタートさせて、ふと、あることに気付く。
この辺りは、緩やかとはいえ坂道になっていたはずだ。
いつもの赤崎なら、文句の一つでも言いそうなのに、何も言わず、普通に話しながらここまで来た。
なんだか、色々考えると胸のあたりがくすぐったくなってきて、考えるのを止めた。


(それでも頬は、緩んだまま)




20100906



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