(あ、コケやがった、)



自然と目の端に入る、自分より幾分か小さいやつ。
さっきまで赤崎と一緒になって椿を追いかけていたはずなのに、何がどうなったのか、いつの間にか、丹波と赤崎に追いかけられてて、最後は躓いて転んだ。
丹波のやつ、練習後によく若手と一緒になって騒げるよな。


「世良のやつ、真っ赤になっちゃって、すっげーオモシレーの!」
「あ?」
「今日、お泊まり、なんだろ?」
「………だったらなんかあんのかよ」


にやにやと笑う丹波の考えてることがわかって、思わずため息が出る。
相手にすんのもバカらしい、そのにやにやした面を一瞥して、転んでぎゃーぎゃーと叫んでいる世良の方をみる。

(転んで涙目とか、いくつだよ……)



「それで世良のことからかったら真っ赤んなって逃げてくんだもん。もー、追っかけずにはいられなかったね!」
「明日練習あんだろ。飯食わせて寝かすだけに決まってんだろ」
「ちっちっち!な、ん、と!明日、オフになるんだなー!」
「は?なんでだよ」

知らね。さっき決まったんだって。そーかよ。
だから堺、多少無茶しても大丈夫!なんて馬鹿なことを言っている丹波の頭に容赦なく拳骨をおくる。
こいつの頭にはこれしかないような気がしてきた。頭が痛い。

丹波から逸らした視線を、ようやく落ち着いたのか、立ち上がった世良へと向ける。
こちらを見たと思ったら丹波の方へ視線をずらし、驚いた顔をして駆けてきた。

「ちょ!タンさん堺さんに何言ったんすかーっ!?」
「おー世良。今夜頑張れ!」
「またそれっすか!」
「今日は寝られないかもな!」
「タ ン さ ん !」

逃げるように走り出した丹波をおいかけようとする世良の襟首引っ付かんで、無理やりブレーキをかける、と、真っ赤な顔した世良と目が合う。
中学生かよ、という言葉は飲み込んで、引っ付かんだ襟首を放す。


「いきなりなにするんスか!?」
「お前が構うから丹波が調子にノんだろバカ」
「だってタンさんが!」
「だってもさってもあるかよ」


それに今日は何もしねーよ。えっ!あ?
明らかに驚いたような顔をする世良に、思ったよりも低い声が出た。
意図して出した声じゃないにしろ、萎縮してしまった世良は、何でもないッス、と小さく呟いて視線を逸らした。

「何だよ、言えよ」
「あ、や!ホントに何でもないッス!」
「…………」
「あ、の、堺さん?」

身長差のせいもあるけど、自然と上目遣いになっている目の前のチビの両頬を思いきり引っ張る。
ぶさいく。でも、可愛くて仕方がない。

(オレもたいがい毒されてんな、)



「いひゃいっ…!」
「お前が誤魔化すからだろ」
「あー、痛かった…!」
「で、なんだよ」
「うー、あー、」

堺さん怒らないッスか?内容による。ううう…。
オレに引っ張られた両頬をさすりながらうーだかあーだか唸っている世良の答えを待つ。
ちらり、もう一度、今度はきっと意図的にやった上目遣いでこちらを見てから、小さな声で何かを言ったようだった。

「聞こえねーよ」
「あー、さっき、今日何もしないって言ったじゃないスか……」
「あ、あー。言ったな」
「あの、その、なんていうか、」
「あんだよ」
「それも、ちょっと、寂しいッス……」


耳まで真っ赤にして、小さく呟いた目の前のチビに思わず眩暈がした。
なにこいつ、意味わかんねえよ。
ここがグラウンドで良かったと思ったのと同時に少しだけ残念な気もした。
この際その点に関しては目を瞑る。


「あ、の……さかい、さん?」
「てめえ…今日覚悟しとけよ」
「え、なんて、」


せっかく今夜はゆったり過ごそうと思っていたのに、とんでもない爆弾を落としてくれたこいつ、今夜はどうしてくれようか。





title by.融解





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -